女性社員が自殺したことが過労による労災と認められ、労基署による強制捜査まで行われた電通。長時間労働が強いられる過酷な実態が明らかになってきて居る同社だが、昨年度期で1274万円という国内トップクラスの平均年間給与と、CMやテレビ番組・映画の制作に携われるという華やかな印象から、就活生からは憧れの的だ。


筆者は、そんな電通を第一志望だという女子就活生から話を聞いた。本音に迫っていきたい。

取材に応じてくれたサヤカさん(21歳・仮名)は都内有名私立大学に通う3年生。すらりとした長身の彼女は大学ではダンスサークルに所属し、学園祭の季節には毎年、煌びやかな衣装に身を包んで公演を行っている。バイトではイベントコンパニオンを務め、人前に出たりイベントごとを手がけるのが好きなサヤカさんは、最近就職活動を始めた。第一志望はズバリ、「マスコミ・広告系」だ。
夏にはテレビ局のインターンにも参加したという。

――ズバリ聞くけど、テレビ局とか広告代理店って、もの凄く激務って言われてて、今特に電通のえぐい勤務実態について毎日のように報道されてるよね。それでもいきたいんだ?

うーんそうですね、私ってそんなにプライド高いわけじゃないので、上司に厳しく詰められたりしてもそれで精神を病んじゃったりすることはないんじゃないかなあって思ってます。どうせ仕事できないやつだししょうがないなあ、ってなんとなく周りに諦めてもらえて、それでやっていけるんじゃないかなあ。

――いやいや(笑)かなり気楽に構えてるんだね

そもそも、マスコミ系が激務で、1年目は全然家に帰れないとか、何日も連続で徹夜するとかは前から言われてたことで、志望者の間でも当たり前になってます。私の周囲のマスコミ志望者では、今回の電通の報道を見て志望するのを辞めた人は見たことないですね。


――給料高くて社会的地位も高い会社に入れるなら、激務でも仕方ないんじゃないかと。

うん、それに本当に耐えられないぐらい仕事が厳しいなら最悪、辞めても、新卒でいい企業に入れてたらどこかに転職できるんじゃないかなって思っています。

――そもそも何でマスコミ志望なの? テレビとか、CMとかよく観るの?

実はそんなに毎日観てるわけじゃないです。でも、お給料もよくて、みんなの憧れだしなんとなく志望してて。テレビも広告も夏にインターンがあって、書類選考に取り組んでるうちに楽しくなってきたんです。「10代に流行るサービスを考えろ」とか、お題が面白くって。
それで通ったところもあったので相性がいいのかなあと思って、志望度を高めています。

――テレビ局とかのインターンって、倍率が何百倍もあるわけでしょ。何かすごい特技があるとか?

いや、私は何かで日本一になりました! とか有名なミスコンで優勝しましたとかのすごい特徴があるわけじゃないです。ダンスはやっていますけどそれも趣味の範囲だし……。先輩で大手マスコミ受かった女の人は英語もペラペラな「いかにも才女」っていう人で、私その人に勝ってる要素なんて1つもなさそう……。でもインターンでも、私がどんどん番組の企画とかをあげていくと、プロデューサーさんが「そうそう、そういうのをお茶の間の人は喜ぶんだよ」って言ってたのが印象に残っています。


――あー、サヤカさんって、「普通の人の感覚」が優れてるのかもね。マスコミに受かる人って、超すごい実績がある人の他は、そういう人が多いかもしれない。自分たちのターゲットである、お茶の間の人たちと同じ感覚を持つ「普通の人」の枠があるのかもね。

あはは、私完全にそれですねー。このまま本選考も受かるといいんですけど……。


インタビュー中のサヤカさんからは終始「気楽そう」という印象を受けた。
そのゆるさが、逆に強みとなっているのだろうか。電通に限らず、憧れの大手企業に入社した後、想像以上に大変な現実を前にして精神的に追い詰められる人は多い。「最悪やめればいい」と気楽に構えつつ、「どうせ大変なんだ」と覚悟する、という態度は重要なのかもしれない。

取材・文 大熊将八(おおくましょうや)
財務分析と取材の両面から企業を調べることを得意とし、現代ビジネスなどで企業分析記事を連載しているほか、「進め!!東大ブラック企業探偵団」というビジネス書を講談社より出版、東大や京大の大学生協でベストセラーとなる。分析術を活かして、就活生の進路相談にも乗っている。

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