道路標識のレア物を追いかける本連載、第2回は「優先道路」である。レア標識といってもいろいろあり、そこらを走って探せば1枚くらいは見つかるかなというものから、普通に暮らしているとまず一生に一度も見ずに終わるであろうものもある。今回の「優先道路」は、おそらくまず偶然見かけることはないレベルのレア品だ。
図1が、その「優先道路」標識だ。文字通り、いま自分の走っている道が優先的に通行可能な道であることを示す。細い横棒が交差する道路、縦の矢印型の太い線が、自分のいる優先道路であることを表している。
読者のみなさんもご存知の通り、信号のない交差点では広い方の道を走る車に優先権があり、狭い方の道から来た車は、徐行または一時停止をしなければならない。このため、狭い道の方には一時停止線のペイントか、または「止まれ」の標識が設置されている。優先道路を走る車は、特に何もせずさっそうと走り去ればよいわけだから、こちら側には標識は必要ないはずだ。では、この標識は何のために存在しているのだろうか。
田園地帯の「優先道路」
この珍しい「優先道路」標識が、茨城県稲敷市に設置されているという情報があったので、行ってみることにした。
貴重な標識というのに、足元に妙なポスターがくくりつけられたままなのが何とも嘆かわしい。この他、交差点の向こうにももう一枚の標識があるので、ここには2枚の「優先道路」標識が設置されていることになる。しかしここだけ見ると何の変哲もない交差点であり、なぜわざわざ珍しい標識が立てられたか判然としない。
が、この道路と直交する道、上の写真でいえば左右方向に通っている道の側から見てみると、ちょっとぎょっとするような状況である。
一時停止の標識が立てられているのはもちろん、路面にも「止まれ」の文字、さらにゼブラ模様の横線がペイントされている。
コリジョンコース現象とは
視界を遮るものが何もない、非常に見通しのよいこの交差点で、なぜ死亡事故が多発しているのだろうか。どうやら、コリジョンコース現象というものが原因であるらしい。このタイプの事故は田園地帯で多発するため、「田園型事故」とも呼ばれる。
直交する2本の道路に、同じタイミング、同じ速度で車がやってくると、視界の中で相手の車の位置はずっと変化しない。すると人間の知覚では相手の存在に気づかないか、止まって見えてしまうらしい。そう言われても何のことやらと思ってしまうが、経験者の話によれば、衝突直前に突然相手が出現したように感じるのだそうだ。自動車だけでなく、航空機の空中衝突やニアミスの原因となったケースも報告されている。恐ろしい話である。
何しろドライバーは相手に気づいていないし、見通しがよいために速度を出していることも多いから、被害が大きくなりやすい。
というわけで、この交差点の「優先道路」標識は、不慮の衝突事故を防ぐための、対策の一環として立てられたものと見てよさそうだ。ただ筆者にとってちょっと不思議だったのは、このエリアには他にも似たような十字路がたくさんあるのに、事故対策がなされているのはこの交差点だけだったことだ。直交する道路の存在がわかりにくいためかとも思ったが、他の交差点もあまり事情は変わりないようであった。もしかするとこの交差点にだけ、何か別の要因があるのかもしれない。
レア標識は一期一会
筆者の住む茨城県内には、もうひとつ土浦市に優先道路標識があったということだが、残念ながら数年前に撤去されてしまったようだ。
と、さんざんレアだ特殊だと言っておいて何なのであるが、実はこの標識がたくさん設置されている地域もある。筆者が知っているのは石川県金沢市付近で、国道8号金沢バイパス沿いにかなりの数が存在している。他の幹線道路と比べて特別な事情がありそうにも見えないが、何か理由があるのだろうか。もし他に「優先道路」多発地帯を見かけたら、筆者にご一報いただければ幸いである。