デジタル機器に対する理解度が低い高齢者を狙い撃ちし、不必要な高額サービスを契約させているとして問題となっている、パソコンショップ「PCデポ」の騒動。

 PCデポは、パソコン販売を行うと同時に、設定や修理などのアフターサポートを充実させており、そのサービスが人気を呼び好調な業績を上げていたのだが、その果てに起きた今回の問題。

この騒動について12日放送の『モーニングショー』(テレビ朝日)が独占取材を敢行。現役のPCデポ従業員からの内部告発を引き出し、話題を呼んでいる。

「最初は罪悪感があるんだけど、だんだん麻痺してきたという従業員の言葉も聞いたことありますし、どこか罪悪感をもっている人間は多いと思います」(『モーニングショー』内で告発した現役の従業員)

 そもそも、このPCデポ問題のきっかけは、80歳を過ぎ認知症を患っている独居老人の父がまったく必要のないであろうパソコン・スマホ10台分のカスタマーサービスなども含んだ、毎月1万5000円もの高額サポート契約を結ばされており、さらにその解約に行くと10万円もの契約解除料を支払わされたと、その息子がツイッターに書き込んだことから始まった。

 そしてこのツイートが一気に拡散。高齢者の無知につけ込んでいた悪徳ビジネスの存在が広く知れ渡るのだが、この騒動はこれで終わりではなかった。こういったひどい契約が生まれる背景には、PCデポという会社自体に組織的問題点があったということが明るみになったのである。


 その発端はまず、今回の炎上を受け「週刊ダイヤモンド」2016年9月10日号(ダイヤモンド社)のインタビューを受けた、野島隆久社長による発言がきっかけだった。そのインタビューで野島社長は記者からの「店や従業員の暴走なのでしょうか。それとも、会社の運営体質の問題だったのでしょうか」という質問に対しこう答え、会社側から従業員に対して厳しいノルマなどを設定したことはないと説明した。

「チームや店舗としての予算や、個々のサービスの予算は設定していますが、従業員一人一人のノルマはありません」

 その発言に対し、PCデポのスタッフは猛反発。PCデポには事実上ノルマとしか言いようがない制度があると告発するツイートが元従業員や現役の従業員から相次いだ。そのなかで出てきたのが「トウゼンカード」という1カ月に一度の提出が求められる、従業員の成果目標を記したチェックリストの存在である。


 このトウゼンカードには、「新規会員様増 平日2件 土日4件」といった具体的な数値目標が記されているとともに、「会員様思いとどまり 平日/土日共通2件」という、契約解除に来た客を店内で説得して思いとどまらせることを目標としたブラックな項目も書き記されていた。PCデポの元社員や現役スタッフはツイッターでトウゼンカードが実質的なノルマとして機能していたと主張している。

〈PCデポのトウゼンカード懐かしいな。
 これ店裏のモニターで各店の取得率流れたり、表彰されたり、賞与に影響したり、取得率低いと指導があったりetc...
 これを「ノルマじゃない」ってのはちょっと無理があるなぁ〉
〈トウゼンカードか......。
 確かにアレはノルマでしかない。
 月初めに今月の目標を店長に報告して、それを目指す訳だけど、目標が低いと店長にこれくらいいけると修正を受ける。

 これをノルマと言わずして何というんだろう?〉

 前述『モーニングショー』で内部告発をした現役の従業員もまたトウゼンカードについてこのように語っている。

「やっぱり、ノルマがないということに関しては、たぶんほぼ、ほとんどの従業員がおかしいと思ったと思いますね。店舗によっては朝礼の時にどの項目を何件取りますというふうに言ってですね、実際にその日取れなかったりすると上の人間から呼び出されて、「何で足りなかったんだ?」とか取れなかった理由を言わされて、そこで圧力を受けるという形のがあるので、あれをノルマじゃないというのは正直無理があると思います」

 会社側はこのトウゼンカードはあくまで目標でありノルマではないと説明しているが、具体的な数字を示しているうえ、人事評価の20%ほどをこのトウゼンカードが占めるということもあり、ノルマではないと説明するのはやはり無理がある。

 そして、こういった数値目標の存在が従業員たちへの圧力となり、高齢者の無知につけ込んで不必要であるのが明確な高額契約プランの押し売りにつながったのは疑いの余地がない。

 今回の指摘を受けて、PCデポは70歳以上の新規加入者に対して家族や第三者の確認を求めたり、75歳以上の会員は解約料を無料にするなどの再発防止策を打ち出しているが、それだけでとても、問題は防げないだろう。

 というのも、PCデポの問題はもっと根深く、組織のブラック体質が根本にあるといわれているからだ。
事実、ネットでは、ノルマ問題以外にも、女子社員へのセクハラ的扱いや社長の人事私物化を批判する書き込みなどもあり、問題は山積だ。

 さらにもうひとつ、PCデポのブラック体質は、家電量販店業界全体の体質と地続きなのではないか、という声もある。

 たしかに、同社の野島隆久社長は神奈川を中心とした家電量販店「ノジマ」を経営する株式会社ノジマのオーナー一族出身で、PCデポは家電量販チェーン「ケーズデンキ」を経営する株式会社ケーズHDのバックアップで展開してきた。が、両社の手法や体質に影響を受けている可能性はあるだろう。

 また、家電量販店業界には、ブラックぶりがとどろいている企業がある。一昨年の9月、「ブラック企業大賞2014」を受賞した家電量販店の最大手・ヤマダ電機だ。
この「ブラック企業大賞」が発表された時に当サイトでも指摘しているが、ヤマダ電機が急成長を遂げる裏には自殺者すら生み出すほどの過酷な労働環境があったといわれている。

「週刊文春」(文藝春秋)13年12月19日号が報道したヤマダ電機の内部資料によると、13年9月7日以降の4週間で、残業時間が40時間を超えた従業員は全国607店舗で1819人。さらに46人の店長が、厚生労働省の定めた『過労死の危険ライン』の月80時間を超えていた。にもかかわらず、店長の給料は平均して手取り月40万円程度。残業代もほぼ支払われていないという(ヤマダ電機側はこの記事を名誉毀損であるとして「週刊文春」を相手取り訴訟を起こしている)。

 ヤマダ電機は売り上げ至上主義で従業員を縛り、過剰な圧迫のもとで店舗経営がなされてきた。
日経BP社によるアフターサービスの満足度に関するアンケートでは07年から7年連続でヤマダ電機はワーストに選ばれているが、その原因のひとつに従業員たちが置かれている高ストレスな職場環境があるのは間違いない。

 今回のPCデポの件はテレビでも大々的に報道されたが、ヤマダ電機のこういったブラックな一面についてはほとんど報道されることはない。というのも、ヤマダ電機は12年だけでも、244億円の広告費を投入している大スポンサーであり、その恩恵を受けるメディアにとってヤマダ電機批判はタブーのひとつとなっているからだ。

 弱い立場にいる高齢者を騙して食い物にしたPCデポの詐欺的なビジネスをさらに追及することはもちろんだが、メディアは広告タブーに屈することなく、家電量販業界全体の経営、労務管理を改めて検証する必要がある。
(小石川シンイチ)