売れ行き好調、書店でも大きく取り上げられている『日本をダメにしたB層の研究』。テーマは現代版“大衆批判”。
B層とは、いったいなんのことなのか? 著者の適菜収氏に聞いた。

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「B層という言葉は、広告会社が作った言葉です。2006年の小泉郵政選挙の前に、自民党がスリードという広告会社に『メディアを使って選挙戦をどう戦うべきか』という分析をさせたんですね。そのときの企画書では国民がA層、B層、C層、D層に分類されています。B層とは、『マスコミ報道に流されやすい、比較的IQが低い人たち』で、『具体的なことはわからないが小泉純一郎を支持する層』のこと。広告会社は、彼らをターゲットに選挙戦を戦うべきだと分析しました」

―このB層が日本をダメにしたと?

「問題は選挙だけじゃないんです。
現在流通する商品のほとんどが彼らをターゲットにして作られている。駄菓子みたいな音楽やロクでもないチェーン店が世の中を席巻しています。別にそれは構いませんが、それと一流のものが例えば『コスパ』といった一面的な価値観によって並列に扱われるようになっている。要するに、価値の混乱が発生しているわけですね。アートの対極に位置するジャリタレがアーティストなどと名乗るようになったのも、その一例ですよ(笑)。

A層はB層を相手にしたらお金になるから、マーケティングを駆使して、積極的にB層向け商品を作り続ける。
B層はそれにカモられ続けるわけです」

―A層~D層を分類する表では、縦軸は「IQ」ですが、横軸は「構造改革」です。構造改革を支持するかは、現在も有効な指標なんですか?

「有効です。これは『日本固有のシステムを国際標準に合わせることに賛成か』ということで、さらに言えば『グローバリズムに対する姿勢』と読むこともできます。つまり、B層は『近代的諸価値を信仰するバカ』なんです。重要な点は、B層は単なる無知ではないということ。ものを知らないだけではなくて、歴史や社会に対する姿勢、伝統的なものの扱い方がおかしい。
彼らは自分たちが合理的で理性的であることに深く満足しながら、『良識』『日常生活のしきたり』『教養』を無視します。


ニーチェもブルクハルトもオルテガも、こうした近代大衆社会のグロテスクな姿を予言していました。現代日本ではそれがB層の暴走という形で顕在化しています」

―世の中にB層向けのコンテンツばかり流通し、B層の人たちも大きな声で発言する。こんな状況に適菜さん自身はかなりイラっときているわけですか?

「まあ、なるべくB層がいないような店で飯を食ったりしています。携帯電話で料理の写真をパシパシ撮るような客のいない店ですね。私は基本的にはC層に向けて本を書いていますが、『何かがおかしい』と洗脳が解け始めているB層の皆さんにもぜひ読んでほしいです。
いつまでもB層では人生はつまらないですよ」

(撮影/井上太郎)

■適菜 収(てきな・おさむ)


1975年生まれ、山梨県出身。作家、哲学者。早稲田大学で西洋文学を学ぶ。出版社勤務を経て現職。著書に『バカを治す』(フォレスト出版)など

■『日本をダメにしたB層の研究』


講談社 1365円


広告会社が自民党に提出した「郵政民営化・合意形成コミュニケーション戦略(案)」。この分類に出てくるB層と、B層的価値観の広まりが日本を劣化させている……。
気鋭の哲学者が、日本で「くだらない」現象ばかり起きている背景をえぐる

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