取材お断り、観光客がカメラを向けることすら許されない日本最大級の遊郭、大阪の飛田新地。今年の週プレ5号で、この「本人襲撃」にも出ていただいた井上理津子さんは、飛田をテーマにした著書『さいごの色街 飛田』の取材に12年もの月日をかけたという。


そんな場所で10年近く料亭(飛田新地の遊郭は「料亭」と呼ばれる)を営んだ元親方の男性が、今回、内情を明かした本『飛田で生きる 遊郭経営10年、現在、スカウトマンの告白』を出版した。美女たちの素姓、自治会のルール、売り上げの具体的な数字など、生々しいディテールが描かれている。

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―取材依頼の段階で、杉坂さんの撮影はやめてほしいと言われました。それは飛田のバックには怖い人たちがいて、身元がバレたら危険だからでしょうか?

「多くの人が誤解していると思いますが、飛田にヤクザはまったく絡んでないんですよ。料亭を始めるときは警察に届け出を出さなければならないのですが、ヤクザに関わりがある人にはまず許可は下りません。飛田で稼いだお金がヤクザの活動資金になると困るからです。


暴対法施行以降は特に審査が厳しくなってきました。そんな事情も知っているので、組合もヤクザもんを徹底的に排除しています。バレた場合に困るのは、組合ににらまれて飛田に女のコを送り込むことができなくなるからです。組合のことだから、『こんなん書いたん誰や!』って作者探しに躍起になってるかもしれません」

―どんな女のコが多いですか? 訳ありなコをイメージしますが。

「そんなコはあまりいないですね。9割は自分の派手な生活がたたって飛田に来ます。
風俗経験者が8割で、未経験者が2割くらい。風俗嬢、キャバクラ嬢、公務員、看護師、保育士、大学生、有名企業のOL。国立大学医学部の学生もいました。基本的には皆あっけらかんとしていますよ。『股開いて客に入れられる仕事、それの何があかんの?』って」

―店のコに手を出したことは?

「まあ、ありますよ(笑)。ついつい手を出したこともあるし、風俗未経験のコには本当に研修しなければならないこともある。
セックスの経験はあっても、コンドームの使い方や終わった後のシモの処理の仕方など、経験の少ないコには教えなきゃいけない。ただ、その場合は、可能な限りビジネスライクにやります。仕事なんだという体(てい)で、『照れてる場合とちゃうで』と真顔で言うと、女のコも顔色が変わりますね」

―ただ、スケベ心で手を出して大変なことになったこともあるとか。

「親方と関係をもった女のコは、自分は特別なんだと思いますからね。女のコは自分が優位に立てることがあったら、必ずほかの子にしゃべります。そして、上であることを示すためにケンカをふっかける。
もう店はめちゃくちゃです。僕も痛い目見ましたよ」

―女のコや呼び込みのおばちゃんのマネジメントに失敗した話がいくつも出てきますね。それを読んでいると本当に楽な仕事ではないんだとよくわかります。しかし、その分、儲けは大きいのでは?

「だいたい月に600万前後の売り上げというお店が多いと思います。基本的に女のコたちの取り分が半分で、おばちゃんが1割。だから残るのは240万くらいですね。
建物の賃料がだいたい40万から50万ですから、手元に残るのは200万弱。そこから、女のコの引き抜きのためのキャバクラや風俗に行くお金を捻出しなければなりません」

―それは楽しそうですね!

「そう言われますけど、風俗に行ったって服も脱がずに女のコの愚痴を聞いて説得するんですよ。もしプレイしてしまったら、性欲丸出しの客だと見なされてスカウトなんてできません。一日に2軒ハシゴするときもあるし、合計したらばかにならない額になります。利益が100万円切る月も珍しくありませんでした。

ある日きれいなコが入って利益が500万を超えることもあるし、突然、女のコが全員辞めてしまって、収入が完全にゼロになることもある。
10年間、安定収入には程遠い状況でした」

―ただ、親方業をやめた今も、「飛田はやはり必要な町だと思う」と本にはあります。

「ほかの風俗街であるような遅刻ペナルティもないし、女のコを帰さないなんてこともない。組合の自治もしっかりしているし、飛田以上に女のコを大切にする風俗街はありません。この街があったから生きていけたというコもいる。飛田は是か非かなんて議論はありますが、まずその実情を知ってほしいと思います」

●杉坂圭介(すぎさか・けいすけ)


サラリーマンをやっていたが、知人男性の紹介で14年前から飛田で料亭を経営。4年ほど前に一線を退き、現在はスカウトマンとして活動する

『飛田で生きる 遊郭経営10年、現在、スカウトマンの告白』


徳間書店 1575円


飛田の女のコはどこで見つけ、一人前になるまでどれほどの苦労があるのか、親方はどんな人が向いているのか、店の裏側では何が起きているのか。大きな誤解とともに語られてきた「飛田新地」の真実を、料亭を経営してきた元親方が明かす

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