「神在月」は10月ではない?



東京の出雲大社は御利益も同じ? 「神在月」はまだ間に合う


古い言い方で10月を「神無月」と呼ぶのは、日本中から神さまがいなくなってしまうからだと言われます。このとき、神さまたちは出雲大社に集まって、来年の縁結びの会議をしているのだとか。そのため、出雲大社のある出雲国(現在の島根県東部)では神無月ではなく「神在月」と呼ぶのが慣わしです。


日本の神さまは八百万(やおよろず)と言われますから、神在月の出雲大社は御利益も800万倍になる!? ……かどうかは分かりませんが、行楽シーズンでもある10月に出雲大社にお詣りに行く人も増えているようです。

しかし、実はこの「神在月」は普通のカレンダー(新暦)ではなく旧暦の10月のこと。今年の場合、旧暦の10月が始まるのは新暦の11月18日からで、出雲大社で神さまを迎える神事・神迎祭が行われるのは11月27日。つまり、これからが本番の「神在月」なのです。

東京のビルの谷間に出雲大社


東京の出雲大社は御利益も同じ? 「神在月」はまだ間に合う


さてそんな出雲大社ですが、東京にもあるということをご存じでしょうか? 六本木ヒルズにほど近い路地を入ったビル街の一角に、出雲大社東京分祠はあります。普通の神社のイメージとは異なる3階建てのコンクリートの建物。しかし、屋根の形は確かに神社です。


外階段を登っていくと3階に神社の拝殿があります。狭いスペースに社務所や絵馬奉納所など神社に必要なものがコンパクトにまとまっています。
東京の出雲大社は御利益も同じ? 「神在月」はまだ間に合う


左手にある手水舎でまず手と口を浄めます。ひしゃくを近づけると自動で水が出てくるハイテクな仕組みです。次に祓戸の神を祀る祓社にお詣りして心身を浄めます。はじめにお詣りするお社が祓社というのは本家・出雲大社と同じです。

東京の出雲大社は御利益も同じ? 「神在月」はまだ間に合う


そして正面にある拝殿へ。普通の神社では「二拝二拍手一礼」とされていますが、出雲大社では4回手を叩く「二拝四拍手一礼」が参拝の作法。こちらでも拍手を4回打ってお詣りします。実は全国統一の参拝ルールが決められたのは明治時代のことで、出雲大社ではそれより古くから伝わる独自の参拝作法を守っているのだそうです。

高層神社は古代出雲大社がモデル?


どうして東京に出雲大社があるのか神職の方に話を聞きました。

出雲大社東京分祠は、出雲大社の第80代国造(宮司)である千家尊福(センゲタカトミ)公が、明治16年に出雲から大国主大神の御分霊を奉じて東京の麹町に創建したのが始まり。現在の場所に移ったのは明治22年のことだそうです。


明治時代は神社にとって激動の時代でした。国家神道へ向かう流れの中、政府主導で様々な改革が行われました。そのひとつが神官教導職分離令。神職に布教活動を禁じ、それまで一体となって活動してきた祭事と布教を分離させる命令です。そのとき、尊福公は出雲大社の宮司の座を投げ打って、布教の道を選びました。そして、出雲大社教の初代管長として日本全国に出雲大社の教えを広めることに力を注ぐことになります。


出雲大社教の東日本での布教の要となったのが、こちらの東京分祠。尊福公の熱い思いのつまった神社なのです。
東京の出雲大社は御利益も同じ? 「神在月」はまだ間に合う
千家尊福公の胸像


現在のような3階建ての形になったのは昭和57年のことです。周りに高いビルが増えて神社を取り囲むようになってしまったのが建替えの背景としてあるそうですが、建物のデザインは48メートルの高さがあったとされる古代出雲大社の高層神殿をモチーフにしているとも言われています。

東京の出雲大社も御利益は同じ?


神話によると、大国主大神は目に見える世界を皇室の祖先に譲ったのち、目に見えない世界を司る神さまになったと伝えられています。そこから、目には見えない「ご縁」を結ぶ神さまとしての信仰が生まれたのだとか。
男女のご縁ばかりがクローズアップされていますが、仕事や家庭、友情などあらゆる幸せのご縁を結ぶのが出雲大社の神さまなのだそうです。

ところで気になるのは、東京の出雲大社でも「神在月」の御利益はあるのか?ということ。「神在月」の東京分祠は『おくにがえり』といって出雲にお詣りに行く信者さんたちを送り出す立場。神在月の行事は実施していないとのことです。

しかし、出雲大社の神さまの魂を分けて祀ってあるので、本家・島根の出雲大社にお詣りするのと御利益はまったく同じ。神無月の東京でお詣りしても、神さまはちゃんと分かっているので大丈夫なのだそうです。

東京の出雲大社は御利益も同じ? 「神在月」はまだ間に合う
『因幡の白うさぎ』のうさぎも発見


「東京でお詣りされるのもいいですが、出雲には出雲にしかない独特の雰囲気があります。大国主大神は男性神ですが、母親のように暖かく包み込む力を持った神さまです。その御神威に触れに、ぜひ一度出雲にもお詣りしてください」

神職の方のおっしゃる通り、ぜひ出雲にも行ってみてくださいね。また、注意もひとつ。

「神在祭は『御忌祭』とも言い、地元の方は歌舞音曲を控え慎んで過ごすのが昔からの慣わしです。参拝にいかれる方もマナーを守り、作法に則ってお詣りし、真摯な気持ちでご神徳を求めていただきたいと思います」
東京の出雲大社は御利益も同じ? 「神在月」はまだ間に合う


最後に出雲大社東京分祠のおみくじを引きました。出雲大社のおみくじは「大吉」「凶」などと書かれていないので、中をじっくり読むことが大切です。

出ました、第一番! 「いよいよ幸縁に結ばれる生き生きとした暮らしの年である」とのこと。さっそく御利益がありそうです。
(山根大地/イベニア)