懐かしのドライブインを巡る『月刊ドライブイン』 教科書に載っていない日本の戦後の姿がそこにある
北海道・直別の「ミッキーハウスドライブイン」の紹介ページ。1986年にオープンし、当時は“ミツバチ族”と呼ばれるバイクで旅するライダーたちでごった返していたという。

ある日、Twitterで見かけた新創刊の媒体のタイトルを二度見した。
月刊ドライブイン』。

思わずドライブインの定義を改めて調べてしまった。
車で乗り入れできるレストランなどの商業施設のことで、高速道路沿いにある「パーキングエリア」「サービスエリア」や、公的な施設である「道の駅」と区別するとなると、全国的にかなり数が少なくなっているはずだ。そのテーマで、しかも毎月出すんですか??? と気になって仕方がなくなった。ミニコミ誌で、お値段はワンコインの500円。
懐かしのドライブインを巡る『月刊ドライブイン』 教科書に載っていない日本の戦後の姿がそこにある
4月10日に発行されたミニコミ誌『月刊ドライブイン vol.01』(500円税込)。WEB通販のほか、中野「タコシェ」などのショップでも発売中。



ドライブインから見えてくる現代史


4月10日に発行されたvol.01では、北海道・直別と熊本・阿蘇のドライブイン2軒が紹介されている。中身はいわゆる旅行ガイド雑誌のようなものではなく、編集者の橋本倫史さんによる店主へのロングインタビューと、やはり橋本さんが撮影したモノクロの味わい深い写真が掲載されている。
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「ミッキーハウスドライブイン」の店主・千葉晃子さん。90歳を越えた今も店を切り盛りしている。

編集後記によると、2011年夏からドライブイン巡りを始めた橋本さんは、「ドライブイン一軒一軒に対する関心ももちろんあるけれど、ドライブインについて考えることで、たとえば日本の戦後の姿(のようなもの)が浮かび上がってくるのではないか」と考えたという。
実際にインタビューからは戦後の高度経済成長期以降にオープンしたその店の歴史だけでなく、その背景にあったツーリングなどのドライブ旅行ブームや、鉄道路線や高速道路が整備される中、そこから外れたエリアの過疎化……といった事情が浮かび上がってくる。文章はくだけた感じだが、詰まっているのは教科書には載っていない現代史といえるものでとても興味深い。
この『月刊ドライブイン』が創刊にいたるまでを、橋本さんに聞いてみた。


伝えたいのはそのドライブインに流れている時間


――最初はドライブインのどんなところに惹かれたんですか?

橋本 学生時代によく原付で旅をしてたんですけど、原付は高速に乗れないからずっと下道を走るしかないんですよね。あるとき鹿児島を走っていると、すごい奇妙な建物があって、それがドライブインだったんです。それまで気に留めたこともなかったんですけど、注意して走ってみると膨大な数のドライブインが存在していて。しかも廃墟と化した店やひっそりと営業している店が多かったんです。
これだけのドライブインがあるからには、僕が生まれるより前にドライブインが輝いていた時代があったんだと思うんですよね。それは一体何だろうと気になって、お店を巡るようになったんです。
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熊本・阿蘇の「城山ドライブイン」。 お店は昨年の熊本地震の影響で残念ながら閉店してしまっている。

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誌面には掲載されていない、阿蘇山を望む「城山ドライブイン」展望台からの眺め。最盛期にはこの展望台を昭和天皇・皇后両陛下が訪れたこともあったという。

――ドライブインというと古くからある観光地に多いイメージですが、国内でいうとどの辺りに多いんでしょうね?

橋本 資料を調べた限りでは、ドライブインが多く存在していたのはやっぱり日本随一の幹線道路である国道1号線だったみたいなんですよね。でも、国道1号線は今でも交通量が多いから、時代が変わると「ドライブイン」という名前を名乗らない店に変わってしまって、ほとんど残ってないんです。ドライブインがよく残っているのはかつての産業道路で、バイパスや高速道路が新設されて交通量が減ったような場所が多いですね。あとはちょっとした景勝地の近くに残っていることも多いです。

懐かしのドライブインを巡る『月刊ドライブイン』 教科書に載っていない日本の戦後の姿がそこにある
「城山ドライブイン」の店主だった故・勝木サヨ子さん。この笑顔同様に、インタビューからも温かみのある人柄が伝わってくる。


――同じお店に何度か足を運んで定点観測しているような感じも見受けましたが、いつもどんな風に取材をされるんですか?

橋本 創刊号で取り上げたお店に関しては、両方とも3回ずつ足を運んだことがあるんですよ。最初は普通にお客さんとして行って、2回目に「ドライブインについて調べて回っているんです」と伝えて、食事をしながら少し話を聞かせてもらって、その話をもとに質問を考えて3回目に訪問するという感じです。でも、1泊2日か2泊3日くらいの日程なので、ほとんど行き当たりばったりです。創刊号の2軒については、3度目の取材に行く前に郷土史についてかなり資料は調べているんです。でも伝えたいのはそのドライブインに流れている時間だから、調べた上で頭から消すようにしてますね。
懐かしのドライブインを巡る『月刊ドライブイン』 教科書に載っていない日本の戦後の姿がそこにある
特別にお借りした掲載写真のカラーver.。北海道でも北海道らしい原野の残るエリアに位置する「ミッキーハウスドライブイン」周辺の風景。


印象的な沖縄のドライブイン


――ちなみに、これまでに行ったドライブインの中で、特にお気に入りのお店というと……?

橋本 お気に入りとなると難しいですね。
ドライブインのレトロさに惹かれてるというより、「ドライブインが存在した時代って何だろう?」という疑問に引きずられてドライブインを巡ってるところがあるんです。日本にドライブインが急増するのはクルマが普及し始める60年代以降なんですけど、そのクルマのある生活っていうのはアメリカンなライフスタイルでもあったと思うんです。その意味で印象的なのは沖縄のドライブインなんですよね。特に、日本のドライブインのほとんどは“駐車場にクルマを停めて店に入る”スタイルなのに、沖縄の「A&W」なんかは“駐車場まで料理が運ばれてくる”スタイルのドライブインなんです。客として沖縄のドライブインを訪れたことは何度もあるんですけど、いつか『月刊ドライブイン』で取材してみたいです。
懐かしのドライブインを巡る『月刊ドライブイン』 教科書に載っていない日本の戦後の姿がそこにある
こちらもvol.01掲載写真の貴重なカラーver.。ありし日の熊本「城山ドライブイン」から見た絶景。


――なるほど。
5月10日には早くもvol.2が出るそうですが、どんな内容になりそうですか?

橋本 さっき「国道1号線にはたくさんドライブインがあったけど、今はほとんど残ってない」という話をしましたけど、かろうじて残っている店もいくつかあるんです。そのお店の中から、東海道沿いの峠の茶屋だったお店が経営するドライブインに取材させてもらっています。もう一軒は四国の遍路道にあるドライブインを取り上げるつもりです。どちらも江戸時代から人通りが多かった場所にあるドライブインですね。僕が生まれた頃になると、国道といえば舗装されてるのが当たり前でしたけど、僕の親が小さかった頃は主要道路でも砂利道だったらしいんです。自分が生まれる前の世界っていうのはなかなか想像しづらいですけど、こうやってドライブインを巡ることを通じて、そのリアリティに触れることができるんじゃないかと思っています。

(古知屋ジュン)