「お客様はお子様です」レゴランド・ジャパンが名古屋にできたワケ
画像は「LEGOLAND(R) Japan」公式サイトのスクリーンショット

大きくアピールされた「子連れ専用」


4月1日、名古屋の金城ふ頭にオープンした大型テーマパーク「レゴランド・ジャパン」。レゴランドとは、デンマーク発祥のブロック玩具メーカー「レゴ」による屋外型施設で、世界で7カ国目、8番目。日本では初めての開業となりました。


名古屋の地元メディアでは、かなり前から計画内容や建設状況が随時報道され、普段は「日本初」とあまり縁の無い名古屋にとって、大きな観光の起爆剤として期待され続けてきました。

そんな名古屋ローカルの報道で何度も言われてきたのが、レゴランドは子どものための遊園地であるということです。地元の新聞でもテレビでも「レゴランドのターゲットは2歳から12歳の子どもたち」であり、「子どもたちと一緒に訪れる大人『も』楽しめる」という取り上げ方。なかには模擬家族がレポーターを務めるテレビ局もありました。

つまりは、明言は避けていたものの「子連れ専用テーマパーク」であると最初からプレスに向けて宣言していたのです。

そう考えると、オープン後にネットで話題になっている価格設定も、なぜ名古屋にオープンしたのかも見えてくるのです。
まさにレゴランド・ジャパンは、名古屋ならではのテーマパークと言えるのです。


地元に進学・地元で就職が今でも普通


名古屋のある愛知県は、地元への大学進学率が全国でトップ。大学進学者のうち7割以上が県内の大学に通います。この背景には、愛知県には大学の数が多いという面もありますが、それ以上に親の思惑があります。

名古屋を中心とした東海3県(愛知・三重・岐阜)では、いまだに3世代同居の家庭も多く、子どもを外に出したくないという親心から、「地元の大学に行くなら車を買ってやる。免許取得代も出してやる」と、東京などの大学への進学を引き止める工作が、昭和の頃から現在まで受け継がれています。

親にとっては、子どもが地元に進学・就職してくれれば、ずっと一緒にいられるという面だけでなく、東京などでの一人暮らしに比べて出費が浮くため、免許取得代や車を買い与えても収支としては安く済みますし、子どもにとっても、実家暮らしで食事に困ることなく、車も手に入るというwin-winの関係になるのです。


さらには、愛知県は製造業が盛んなうえに、駅前の再開発ラッシュや活況な製造業を受けてサービス業も右肩上がり。ローカルニュースでは「4年連続のベア」「求人は高待遇合戦「人手不足」「人材争奪戦」といった項目が並び、最近では名古屋の企業が九州まで出向いて採用活動をしているほど、仕事が溢れているのです。


地元で子育てをするのも今でも普通


地元の大学に進学するのが普通で、地元の企業に就職するのが普通。同居も多く、同居でなくとも親が近くにいる……となれば、子育て環境も抜群。出生率を見ても東京や大阪に比べて愛知は高くなっています。昨年、愛知県の人口は初の750万人を突破。人口減少が他人事、それが愛知・名古屋なのです。


最近、関東では「サザエさん」の視聴率がふるわず、「現代の家族像と乖離しているのではないか?」という声が聞かれますが、名古屋ではサザエさんの視聴率が今でも高く、20%近くをマークすることもあります。まだまだ名古屋では、サザエさんの家族像に共感を覚える家庭が多いといえるのです。

冒頭にも書きましたとおり、レゴランド・ジャパンは「2歳から12歳の子どもたち」がお客であり、「子どもたちと一緒に訪れる大人『も』楽しめる」がコンセプトです。オープン当日の新聞広告にも「家族でいっしょにたっぷりあそべる」「さあ、家族みんなで、遊びに来てね」と、二度念押しをして「家族」専用のテーマパークであることを強調しています。

強気な価格設定と言われますが、その年代の子どもと親・祖父母だけをターゲットにして運営できるラインとして、計算されていると考えられます。また、その価格設定にすることで、「お客様」である2歳から12歳の子どもたちが楽しめる適度な客数になるように考えられている……。
たくさんの大人がアトラクションに並んでしまうことで、大事なお客様である「お子様」を待たせるということのないように考えられているのでしょう。

垣間見える地元優遇


「お客様はお子様です」レゴランド・ジャパンが名古屋にできたワケ
中日新聞に掲載された「レゴランド・ジャパン」の広告

レゴランド・ジャパンの敷地は現在約9ヘクタール。40以上の乗り物があります。1日楽しめる1DAYパスポートは大人(13歳以上)が6,900円、3歳から12歳の子どもが5,300円。大人2人・子ども2人の一家で24,400円となります。

他のテーマパークに比べても遜色のない料金となっていますが、一方でまったく異なるのが年間パスポートです。こちらは大人が17,300円で、子どもが13,300円。
わずか3回で元が取れてしまいます。しかも「パスアップグレード」ができるので、1DAYパスポートで入場したあとに、差額で年間パスポートに切り替えることができるのです。

東京のディズニーが6万円台であることを考えると、年間パスポートのお得さが際立ちます。

また、オープン半年前には特典付き年間パスポートが発売されており、その頃に買った人は3月のプレオープンにも入場できるようになっていましたし、レゴブロック付きで、飲食も10%OFF。地元の子どもたちに何度も足を運んで欲しい。レゴランド・ジャパンの狙いが垣間見えます。
逆に考えると、一見さんにはハードルが高いとも言えますが。


テーマパークは誰のもの


昨年、名古屋が魅力に欠ける都市として大きく取り上げられましたが、その魅力はあくまでも「観光として訪れる魅力」の話です。

同居もしくは近くに住む親と一緒に、協力しながら子どもたちを見守って、進学に困らず、就職にも困らず、大きくなった子どもたちもまた近くに住んでくれて、孫が生まれる。大きな刺激は無いけれども、生き馬の目を抜くようなことも無い。平凡だけれども、親から子へ、子から孫へと続く「家族」。名古屋は「暮らす街」「生活する街」として魅力溢れる街なのです。

主役はあくまでも子どもたち。大人は自分が楽しむのではなく、子どもが楽しむ姿を見て喜び、また、子どもたちの未来に思いを馳せる。世代を繋ぐテーマパーク、レゴランド・ジャパン。

まさに「チルドレン・ファースト」子ども第一主義。今の日本に最も欠けているものが、レゴランド・ジャパンにはあるのです。
(川合登志和)