武装ラブライバーとは何か? ヤンキー、老人、死刑囚…「アウトサイダーアート」の伴走者が最注目

節分の季節である。「福は内、鬼は外」と、我々は幼いうちから異形の物を外に追いやる思想を知らぬ間に植えつけられてきた。


そんなアウトサイドにいる(と思われている)人々、例えば障害者、ヤンキー、犯罪者、老人、ホームレスといった社会的少数者いわゆるマイノリティの表現活動を発掘し、紹介している「アウトサイダーアート」キュレーションの第一人者がいる。櫛野展正(くしの・のぶまさ)さん。広島県福山市在住の40歳。

去年4月には、自ら経営するアートスペース「クシノテラス」にて、和歌山毒物カレー事件の林眞須美死刑囚や東京・秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大死刑囚ら42人の死刑囚が拘置所で描いた絵画を展示し、話題を集めた。
 

昆虫2万匹で作った昆虫千手観音像


そんな櫛野さんがこのたび上京、渋谷にある「実践女子大学」でトークイベントに出演していたので覗いてみた。現在美術家・奥平聡氏のご紹介である。
 
講演は、櫛野さんが実際に取材した人々の作品を見ながら行われた。
例えばこれは、2万匹の昆虫を使って建立した「昆虫千手観音像」。高さ1m80cm。

武装ラブライバーとは何か? ヤンキー、老人、死刑囚…「アウトサイダーアート」の伴走者が最注目
すべて虫で出来た観音様


武装ラブライバーとは何か? ヤンキー、老人、死刑囚…「アウトサイダーアート」の伴走者が最注目
クワガタ、カナブンなどの虫たち


この観音像を造ったのは群馬県在住の稲村米治さん(97歳)。40年以上前、東武鉄道の職員を退職後に建立したものだという。もともとは、我が子に虫の命の大切さを教えるため、地元ゆかりの武将・新田義貞像を5000匹の虫で製作したのだが、逆に地元住民から命を粗末にしていると非難を浴びる。

そこで、殺してしまった虫を供養するために5年の歳月をかけ造ったのがこの観音像だという。
現在は群馬県板倉町の中央公民館に、地元の郷土作家にまじって展示されている。


思いの原点は「福祉」 その人の生き様を含めて紹介していきたい


かつて、知的障害者の福祉施設で生活支援員として16年間働いていたという櫛野さん。その時、たまたま隣にいた障害者の絵があまりにも面白く、ぜひ紹介したいという衝動に駆られ、今の活動へ。ただ、それ以外の表現活動をしている人たちは「障害」がないゆえに、いつまでも経っても「街の変なおじさん」扱いされていることに憤りを感じ、やがて障害者以外の人々にも目を向けるようになったという。「その人たちの生き様も含めて世に知らしめたい」と櫛野さん。
 

櫛野さんが注目する「武装ラブライバー」


若者がハロウィンや成人式などいつでも非日常を味わえるこの時代、櫛野さんが新たな文化として注目しているのが、秋葉原に出没する「武装ラブライバー」集団だという。

テレビアニメやゲーム、漫画、CDなどの大人気メディアミックス作品「ラブライブ!」。武装ラブライバーとは、そのファン・通称「ラブライバー」が、缶バッジなど大量のグッズを身に着けたニュータイプだ。
基本的に、背中に背負っている。

彼らの武装へのモチベーションは、応援するキャラクターへの愛、ほかの同志との繋がり、そして力強い自己主張だ。武装に対する評価のポイントとしてはグッズの数と見せ方。それらによって優劣がつけられ、彼らなりのランキングがあるという。

こちらは、「武装ラブライバー四天王」の1人と言われるトゥッティさん20歳。「ラブライブ!」の登場人物、西木野真姫(にしきの・まき)の武装ラブライバーだ。


武装ラブライバーとは何か? ヤンキー、老人、死刑囚…「アウトサイダーアート」の伴走者が最注目
缶バッジの点数は1,000点



武装ラブライバーとは何か? ヤンキー、老人、死刑囚…「アウトサイダーアート」の伴走者が最注目
前から見ると……バッグのたすきかけの部分を頭にかけている


このトゥッティさん、普段は関連グッズを持たない普通の青年で、「原宿などではあの恰好では歩けない」という。社会のインサイダーでありながら、秋葉原という街に降り立つとアウトサイダーであろうとする……。その切り替えが面白い。

櫛野さんの講演では他にも、この武装の詳しい仕組みや、トゥッティさんが起こした「武装ラブライバー革命」、さらには風紀を乱す新たな輩の出現など実に興味深い話が展開された。


枠組みの外の人たちへのまなざし

 
「ラブライバーは1,000~2,000万人。経済効果は400億円。
もはやマジョリティの存在なのですが、自分たちが知ろうとしていないだけなのです。私はそれをアートという文脈の中で紹介して、生き方の選択肢の1つとして提示したい」と語る櫛野さん。

2月25日からは、東京で初の展覧会を開催する「クシノテラス」。人間関係や疾病、障害などさまざまな理由で生きづらさを抱えた4名の表現者による「空想世界」をテーマにした作品を紹介する。東京・根津にある「ギャラリー・マルヒ」にて、3月6日まで。

ただし櫛野さんは、「こうした方々の作品を、今までのように単に美術館という1つのハコに押し込めるのではなく、作者のもとに出向いて鑑賞するという形も模索していきたい」とも語る。
今後、どのような、アートとすらも思われていないものを発掘していくのか大いに注目していきたい。

武装ラブライバーとは何か? ヤンキー、老人、死刑囚…「アウトサイダーアート」の伴走者が最注目
講演中の櫛野さん


なおこの櫛野さんの講演は、トークセッション「政治とアート」の第三弾「アートはだれのもの?」の基調講演として開催。講演後、宮原一郎氏(実践女子大学人間社会学部助手)の司会のもと、太田エマ氏(キュレーター)、奥平聡氏、花房太一氏(美術批評家、キュレーター)といった各パネリストから、櫛野さんの存在意義や、インサイダーアートとアウトサイダーアートの境界線、作品をどう残すのかなど、活発な議論が展開された。