武蔵野美術大学を去年卒業し、現代美術作家として活動している野口竜平(たっぺい)さん(24歳)が、今月10日、11日の2日間、「ニューヨーク方面」を目指すヒッチハイカーを募集している。

各々が近所で「ニューヨーク方面」の看板掲げる


家の近所から「ニューヨーク方面」目指すヒッチハイカー100人、全国で一斉募集
去年、「ニューヨーク方面へヒッチハイク」を行ったときの野口さん

このプロジェクトは日本全国の人たちに、自分の家の近所の路上で「ニューヨーク方面」と書かれたダンボールの看板を掲げてもらい、それぞれヒッチハイクしてもらうというもの。募集人員は100人を見込んでおり、車の乗り降りを繰り返しながら原則として2日間行うことを推奨している。

 
「ただ、開始時間や終了時間、またはどこをゴールにするかといったルールは特に決めていない」という主催者の野口さん。
 
「このヒッチハイクは、乗せてくれた人との会話によって成り立ちます。去年、茨城県の取手市から1人で2週間、「ニューヨーク方面ヘヒッチハイク」をしたときも、『とりあえず海の方いく?』『成田空港いこう』『六本木で降ろすから次お金持ちに拾ってもらって』など乗せてくれる人の反応が面白かったです。主婦やキャバクラ経営者、テレビ局のロケバスなど計25台の車に乗せてもらいましたが、ニューヨークには結局行けず、最後は静岡県御前崎市にある『ニューヨーク』というパチンコ店に降ろされて、人生初のパチンコに挑みました」と語る。

そして、「『ニューヨーク方面』と書かれたダンボールを持つだけで見慣れた風景はがらりと変わる。夢のある冒険は洞窟や山に行かなくても、家の前のさえない路地からだって始められるんです」とその意義を強調した。

 
実際、今回の企画者である野口さん自身もプレーヤーとして参加、当日の朝、池袋からダンボールを掲げて出発するという。

1か月廃タイヤを引っ張った経験も


大学卒業後、「移動しながらの芸術表現」をテーマに活動を続けている野口さんはこの「『ニューヨーク方面』ヒッチハイク」だけではなく、「タイヤを1か月引っ張って歩く」、「東京から香川まで台車(リアカー)を引っ張って歩く」といったパフォーマンス作品を多数発表し、「さいたまトリエンナーレ2016」など各地の芸術祭にも積極的に出品。現代社会に生きることを体当たりで模索している。
野口さんが腰にロープを巻いて廃タイヤを引っ張ったのは去年の夏。大分県別府市の温泉街を、毎日夕方6時から7時まで休みなく続けた。

「普通こういうのは野球部が筋トレでやるイメージですよね。でも何の変哲もない人がそれをしている。
でも『なんでやってるの?』と聞いても、期待した答え返ってこない。ただそれによって嫌悪感を持たれても、『面白い』と思ってもらってもかまわない。何かそこで考えるきっかけが生まれるから」

家の近所から「ニューヨーク方面」目指すヒッチハイカー100人、全国で一斉募集
みんなに廃タイヤを配ってそれぞれ引っ張ってもらう「タイヤ祭り」というパフォーマンスもある


東京から香川までリアカーの旅


リアカーはそのタイヤの延長線上で始めたもの。今年3月、東京・小平市から、香川で開かれる「かがわ・山なみ芸術祭2016」会場までリアカーを引きながら大学の同級生の鈴木健太さんと出発。持ち物は寝袋やテント、それと食料、調味料、カセットボンベ。お金は持たず、行く先々で絵を描いて売ったり、ハーモニカやギターなどでパフォーマンスしながら生活費をねん出していった。

また道すがら親しくなった人たちも同行することもあったそうで、
「根本さんという方とは箱根の難所を一緒に越えた思い出があります。
大阪から自転車で北の方へ向かっていた隼人さんという男性と京都で知り合ったのですが、京都に自転車を置いたまま、日本を南下する僕らの旅に参加してくれました。それから父島からやってきた西村さん、ダンサーの梅さん、ニューヨーク帰りのリサちゃん、名古屋で別れた修行(しゅぎょう)さん、ボクサーの藤原さんなど計10人が途中で入ったり、抜けたりしながら旅に参加してくれました」
 
そんなリアカー旅の仲間について野口さんは「先生はいないけど同じ教室のクラスメイト。なんとかしなければならないという特別な感覚でつながっていた」と振り返る。

家の近所から「ニューヨーク方面」目指すヒッチハイカー100人、全国で一斉募集
東京からリアカーを引いて850キロ、52日間で香川に到着


以上のプロジェクトは開催中、多くの反響を呼んだが、今回のヒッチハイクは100人規模。SNSの盛り上がりも少し期待しているという野口さん。

「現在僕の周りでは参加希望者は15人います。
もし本当に100人が一斉に始めたら、複数の目撃情報をネットで目の当たりにすることもあるかもしれません」

「パスポートは忘れぬよう」


最後にこのプロジェクトに寄せる思いについて改めて聞いてみた。

「現実はどうにもできない範囲でやっぱり無限に存在しています。僕を含め多くの人が、この捉えようのないふわっとした世界で、漠然と生きているという頼りなさや無常感、みないなものをもって暮らしています。でもそこにはかすかな喜びや美しさみたいなものもにじみ出ている気がしていて、そういう日本的な感性を『ニューヨーク方面』という勢いだけでできるような、カラッとした行為ですくい取れればいいなと思っています」。

また、「現実は想像を超えてどこまでも広がっていて、なにが起こるかはわからない。くれぐれもパスポートは忘れぬよう」と話す。
また2日目の夜に、近くにいた参加者で報告を兼ねて打ち上げをやるかもしれないが、今のところ未定とも。

家の近所から「ニューヨーク方面」目指すヒッチハイカー100人、全国で一斉募集
現代美術作家の野口さん。「最後はニューヨークのアートシーンで成功したい」と語る


わからないことがあれば野口さんに連絡してほしい。
野口竜平さんメールアドレスmukadematuri@yahoo.co.jp