理由は2015年11月にパリ市内で起きたテロ事件による観光客の減少だ。館内ではチベットのタンカ(仏画)、日本の春画といった古美術から現代アートまで、男女の秘所をモチーフにした工芸・芸術作品が保存・展示されていた。これら2000点を超える作品は一部を残し競売にかけられ、備品等もインターネットの売買サイトで売りに出された。
日本での購入が収集のきっかけ
パリ・エロティズム美術館は1997年、パリの名物キャバレー「ムーラン・ルージュ」を中心とした歓楽街の一角に開館した。パリ市内には多くの美術館が点在するが、その中で約20年間、独自の路線を貫いてきた。各国ガイドブックにも掲載されるパリの名所であり、日本人観光客も多く訪れた。日本との縁も深く、同美術館オーナーのジョー・カリファさんは「1980年に日本で購入したコレクションが現在までの収集のきっかけを作った」と現地メディアに対し答えている。
しかし来館客の半数を海外からの観光客が占める同美術館にとって、テロによる外国人観光客の減少は経営に大きく響いた。近年月1万人あった来館者数は、月2000人まで減った。その様な状況でも国やパリ市からの支援も受けず、今まで通り午前10時から深夜2時まで開館してきた。加えて美術館が入る建物の所有者と賃貸契約の更新もできなくなった。
欧州で「性」をテーマにした主な美術館は、アムステルダムにあるエロティック・ミュージアムやベルリンにあるベアテ・ウーゼ・エロティク・ミュージアムなどあるものの、今回の閉鎖でパリからは「秘宝館」の火が消えた形となる。
パリに広がるテロ不況
パリ・エロティズム美術館に限らず、テロはパリの観光産業全体に影響を与えている。
痛ましい事件から今月で1年が経ったが、テロが残した影響は未だ各方面に影を落としている。
(加藤亨延)