家庭用ソフトクリームメーカーはなぜ普及しないのか


暑い日に食べたくなるソフトクリームは、高速道路のパーキングエリアなど様々な場所で販売されていますが、業務用と同レベルの機能を備えた家庭用ソフトクリームメーカーは見かけません。
週2ペースでソフトクリームを食べる筆者が、ソフトクリームメーカーがなぜ家庭で普及しないのか、業界のパイオニアである日世(大阪府茨木市)のマーケティング部に取材しました。


日本に初めてソフトクリームを紹介した企業


――貴社の簡単な説明をお願いします。
日世株式会社は、ソフトクリームの総合メーカーで、ソフトクリーム液体原料(ミックス)、可食容器のコーン、ソフトクリーム製造機であるフリーザーを製造販売しています」

ソフトクリームメーカーのことをフリーザーと呼ぶのですね。

――貴社のホームページを拝見したところ、1951年7月にソフトクリームを初めて日本に紹介したと書いてありました。当時からソフトクリームメーカーはありましたか?

「1947年(昭和22年)に米国生まれの日系二世が『株式会社二世商会』を貿易会社として設立したのが当社の発祥です。太平洋戦争終戦直後で英語が話せる日本人が珍しい時代に、米国から様々な商品を輸入しており、ソフトクリームの原料、コーン、フリーザーも輸入品の一つでした。なお米国では1931年にソフトクリームフリーザーは発明されていました」

――そんな昔からソフトクリームがあったんですね! 日本に来たのはいつ頃なのでしょうか。

「1951年の7月3~4日に東京の神宮外苑で行われたカーニバルでソフトクリームが初めて日本に紹介されました。
そのときの日本人の反応を見て、当社はソフトクリームに集中するようになりました。割れたり湿気たりしやすいコーンを自分たちで国内生産するようになったことを皮切りに、フリーザーもクリームの原料ミックスも自社で製造するようになり、ソフトクリームの総合メーカーになりました」

ソフトクリームにこんなに長い歴史があるなんて!! 実は今年はソフトクリームが日本に上陸してから65周年のアニバーサリーなのだそうです。記念のイラストを日世さんからいただきました。この男の子と女の子に見覚えのある方も多いはず。ソフトクリームは実は私達にとってとても身近な存在なんですね。

家庭用ソフトクリームメーカーはなぜ普及しないのか


業務用ソフトクリームメーカーが高価な理由


――家庭用ソフトクリームメーカーについてインターネットなどでアトランダムに調べたところ、ネットショッピングサイトで家庭用でも使えそうな貴社の業務用のフリーザーの中古品が出てきました。中古品でも何十万円もする価格でした。
なかなか高級品だと思うのですが、何か構造上の理由があるのでしょうか?

「まずソフトクリームとは何のことを指すかということをご説明しますね。
ソフトクリームを一言で表現するならば、店先で製造している『作りたてのアイスクリーム』と言えるでしょう。東京都ではソフトクリームを販売する時に『アイスクリーム類製造工場の許可』を取得しなさいと指導されます。つまりソフトクリームを販売している観光地の土産物屋さんや喫茶店、コンビニエンスストアやファストフードの店頭も『アイスクリーム工場』であると言えます。
『工場』ですから、厳しい管理基準をしっかりと守っています。皆様が土産物屋さんや喫茶店でソフトクリームを頼むということは『アイスクリーム工場に直接アイスクリームを買いに行っている』ことと同じなんですね」

こちらが日世さんで一番人気のソフトクリームメーカー(フリーザー)です。

家庭用ソフトクリームメーカーはなぜ普及しないのか


「フリーザーには加工されたソフトクリーム専用ミックスを仕込みます。普段お飲みになっている牛乳をそのまま仕込まれても、ふわっとしたソフトクリームはできません。
フリーザーの中には筒状の製造室があり、筒の内面に原材料が凍りつきます。それを柔らかく掻きとり、適切な量の空気と混合して、常に一定量のアイスで製造室を満たしておきます。お客様に販売する際にフリーザー前方に押し出して、新たにできた空間に新しい液体原料が補給され、常に満たされて次の取り出しを待ちます。こうして当社のフリーザーでは100V家庭用電源のフリーザーでも1時間に120個、200V工業用電源だと1時間に240~790個などの製造能力を持っています」

製造量を聞くと、まさにアイスクリーム工場に直接買いに行っているように感じます。
ソフトクリームメーカー(フリーザー)はいわゆる一番身近なアイスクリーム工場なんですね。また、専用のミックスにどれくらい空気を含ませるかによって、ソフトクリームの舌触りが変化していくというのも興味深いです。

お店の味を家庭で再現しようするといくらかかる?


――ソフトクリームメーカーを家庭用に導入しようと思います。簡単な見積もりとひと月あたりの維持費について教えてください。また家庭用に導入している人は日本でどれくらいいるのでしょうか。

「おそらくご家庭でご要望されるのはお風呂上りに1個と言った少量だと想定されます。
家電品と業務用品はその規模感において大きくかけ離れていて、共用することは(どのような設備でも)非常に難しいと思われます。それでもご要望の場合、小型フリーザーでも1台100万円、電気水道代は月間1万円かかります」

ひゃ、100万円...

「はい。それとお店レベルのソフトクリームを作るには専用の原料が必要ですので、フリーザーがあってもお店のクオリティのソフトクリームを製造することは非常に困難だと思います。業務用原料に使われている高品質な原材料を少量入手することは高価になるだけでなく入手自体が困難だと思われます」

なるほど、確かに家庭用に購入するとなるとソフトクリーム1個あたりの値段が高くなりますし、高級品になってしまいますね。業務用だからこそあの美味しさと手軽さが維持できるんですね。

――ソフトクリームにこだわり抜いている貴社オススメのソフトクリームはありますか?
クレミアをオススメします。
『ソフトクリームを上質なスイーツへ』をテーマに開発した商品で、20代・30代女性を中心に、高い評価を得ています」

――最後にソフトクリームのアピールポイントを教えてください。

「当社は2013年に、なぜソフトクリームが60年以上も売れ続けているのか消費者調査を行いました。毎日でも食べるヘビーユーザーは全体の10%、1年に1個も食べないユーザーも10%。残りの80%は年間数個お召し上がりになります。この80%の方々は、観光地やお出かけの時に購入され、一緒に出掛けたお子様やお孫様、配偶者や恋人、とても親しい友達と、幸せな時間を共有しながら食べていることがわかりました。こうした幸せな笑顔を私たちは守りながら今後もソフトクリームのミックス(原料)、コーン、フリーザーを供給してまいる所存です」

今回の調査でお店レベルのクオリティのソフトクリームを家庭用に置くには様々な条件があり難しいことがわかりました。しかしソフトクリームが厳しい管理基準をクリアして私達のもとに訪れることもわかり、それが日ごろ試行錯誤しながら改良を加えていった努力の賜物だと思うと、ソフトクリームに対して感謝と愛着も湧きました。
(ポンコつっこ)