実家(埼玉県)に住んでいた頃、玄関の天井にツバメが作る巣をよく発見していました。これ、「縁起が良い」と言われているらしいですね。
フンの問題など色々と面倒なことはあるのですが、我が家ではあえてそのままにしていたことを覚えています。


東南アジアのジャングルまで行き、社長自らがツバメの巣を採ってくる


話は変わって。今回、健康食品の製造・販売を行う「エムスタイルジャパン株式会社」(福岡県福岡市)に取材してきました。というのも、同社代表取締役社長・稲冨幹也氏が「日本人で唯一の“ツバメの巣ハンター”を名乗っているらしいんです。
「2011年より私自身がマレーシアのボルネオ島にあるジャングルへ入り、天然の巣を採取しています」(稲冨代表)
「ツバメの巣は偽物だらけ」日本人で唯一の“ツバメの巣ハンター”に話を聞く

同社では、天然アナツバメの巣を用いて食品・サプリメント・化粧品等の研究開発に活かしているのだそう。

要するに稲冨代表が自分の目で見て、手で触れ、「良質」と判断した天然ツバメの巣のみを採取し、自身が選定した工場へ自分の足で搬入しているとのこと。
これ、労力が半端じゃなさそうなんですが……。
それに、御社には他にスタッフさん達も在籍しているでしょうに。それでも、やっぱり代表ご自身が採りに行かなきゃダメなんですか?
「ツバメの巣は偽物だらけ。自分で採るしかないと考えました」(稲冨代表)
「ツバメの巣は偽物だらけ」日本人で唯一の“ツバメの巣ハンター”に話を聞く


稲冨代表が採取するのは、東南アジア6カ国に生息する「アナツバメ」の巣。日本でも軒先などでツバメが枯草や泥を使って灰色の巣をつくりますが、それとは根本的に別物です。
「ツバメの巣は偽物だらけ」日本人で唯一の“ツバメの巣ハンター”に話を聞く

アナツバメは草などを使わず、唾液の分泌物だけで手のひらほどの大きさの巣を約 1カ月かけてつくります。細い糸状の唾液を編み込むようにしてつくられたツバメの巣は白く無味無臭で、弾力の強いゼリーのような独特の食感を持っています。

「ツバメの巣は偽物だらけ」日本人で唯一の“ツバメの巣ハンター”に話を聞く

シアル酸、上皮細胞成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)など、美容や健康に良いとされる成分を多く含み、稀少な漢方材料や食材として重宝されているそうです。


約100mもの高さまで登ることも


では稲冨代表がどのようにツバメの巣を採取しているか、ご紹介しましょう。
「マレーシアには全ての工程で一週間、ジャングルには二泊三日滞在します。準備は、安全靴、高性能ライト、あめ、食料くらいです。あとの道具は、現地の人に借りて行きます」(稲冨代表)
「ツバメの巣は偽物だらけ」日本人で唯一の“ツバメの巣ハンター”に話を聞く


マレーシアのボルネオ島には広大なジャングルがあり、ここで採れる巣が最も良質とされているのだそう。アナツバメはヒナを敵から守るため、断崖絶壁や洞窟内の高所など簡単には近寄れない場所に巣を作ります。
「ツバメの巣は偽物だらけ」日本人で唯一の“ツバメの巣ハンター”に話を聞く

採取には危険がともなうので、政府の許可証を持ち、経験を積んだ人間にしか許されていません。


同社が採取しているのは、このジャングルの洞窟内につくられた天然アナツバメの巣。洞窟は全長6kmで迷路状になっており、最もツバメの巣が多い岩壁は約100mもの高さがあります。
「ツバメの巣は偽物だらけ」日本人で唯一の“ツバメの巣ハンター”に話を聞く

足場を張りめぐらせて高所へ登り、金具のついた長い竹の棒を使って採取。1500年以上もの昔から変わらない手作業で、貴重な巣を傷つけないよう慎重に行なっています。

細心の注意を払い、それでいて危険と背中合わせの状況で巣を採取していることはわかりました。でも、これって残酷じゃないですか? だって、その巣にはツバメが住んでいるだろうし……。

「ツバメの巣は偽物だらけ」日本人で唯一の“ツバメの巣ハンター”に話を聞く

「巣の採取と言っても、アナツバメの住処を奪うわけではありません。アナツバメはヒナが成長して巣立ったあと、それまで使っていた巣を放棄する習性があります。また次の繁殖期には新しい巣をつくるため、以前の巣を再利用することは決してありません。採取するのは、役目を終えた空き家の巣のみ。採取時期も、ツバメの生活に合わせて年3回(2、8、12月)と限定されています」(稲冨代表)
「ツバメの巣は偽物だらけ」日本人で唯一の“ツバメの巣ハンター”に話を聞く



ツバメの巣は偽物だらけ。本物を証明する方法も確立されていない


もう一つ気になるのは、稲冨代表による「ツバメの巣は偽物だらけ」という発言です。
これ、本当ですか? 例えば、我々が中華料理などで食すツバメの巣とかは? あと、化粧品で「ツバメの巣配合」と謳われている物も多い気がする。それらに偽物が混じっているのが現状なのでしょうか?
「ツバメの巣そっくりに作った木型に食感の似た材料流し込んで作った偽物や、化学薬品で色を付けて見た目の価値を吊り上げた粗悪品などが多数流通しています。2011年には、ツバメの巣最大手の会社の最高級品から発がん性物質が見つかり大問題となりました」(稲冨代表)
あらら、マジですか……。
「いまだ本物を証明する方法は確立されておらず、中国の富裕層もツバメの巣を警戒する有様。例え日本の超一流ホテルで提供されるツバメの巣であっても、それが“天然もの”であることを証明する術は無いのが現実です」(稲冨代表)


「偽装」と「乱獲」がはびこる


遡ると、稲冨代表がツバメの巣に関心を持ったきっかけは、仕事で訪れたマレーシアでした。現地で、難病をツバメの巣で克服した人に出会ったのが全ての始まり。
マレーシアでは薬や医療によって快癒しない病を克服するため、ツバメの巣を用いることが多いのです。しかも「マレーシア産のアナツバメの巣が、世界中で最もハイクオリティー」と言われているとのこと。

しかし前述のとおり、アナツバメの巣を採取するのは非常に大変。結果、悪徳業者がはびこります。
「中国で消費されることが多いツバメの巣ですが、アナツバメは中国(海南島を除く)に生息していません。しかし高値で売れるために偽装ビジネスが横行しており、流通しているツバメの巣のほとんどは偽物か養殖です。都会のビルでアナツバメを飼育して収穫する養殖物は、衛生環境の悪さから品質的にも劣るとされています」(稲冨代表)

また、ツバメ達の生態系も壊しかねない採取手段……いわゆる乱獲も横行している模様。
「象牙を目的としたアフリカゾウの乱獲が問題となっていますが、同じことがアナツバメにも起こっています。マレーシアではアナツバメとその生息環境を守るために、採取の方法や時期を政府が厳重に管理し、許可証のある業者のみが採取できることになっています。しかし未許可の悪徳業者は後を絶たず、まだヒナのいる巣を乱獲してアナツバメの生態系を乱し、ジャングルの自然を荒らしています」(稲冨代表)

だからこそ稲冨代表は自らで許可証を取得し、ジャングルの洞窟に入って採取に立ち会う。
「ツバメの巣は偽物だらけ」日本人で唯一の“ツバメの巣ハンター”に話を聞く

「今後も本物の天然ツバメの巣を提供するとともに、ツバメの生態系とジャングルの自然を保護することを使命とし、実践していきます」(稲冨代表)

その志は、立派という他ありません。本当に頑張ってもらいたい。あとやっぱり、その危険を顧みない“冒険野郎”気質にも驚愕です。
(寺西ジャジューカ)