京都ではお正月に家族や親戚が集まったとき、昔から「パサン」というお菓子を食べるらしい。おせち料理やお雑煮などをみんなで食べ終えた後、お茶を飲みながら遊びにきた子どもたちなどにふるまったり、みんなでつまむカジュアルなおやつ。

本格派の和菓子もいいけど、ちょっと懐かしくて親しみやすい、こんな京都のふだん着の味にも心魅かれる……。
京都の正月に欠かせない謎のお菓子「パサン」って何?

京都の正月に欠かせない謎のお菓子「パサン」って何?

この「迎春用パサン」、一見、和風クッキーのような見た目で、「御所梅パサン」と 「舞鶴パサン」の2種類がある。
製造しているのは、京都・二条城近くで焼菓子の製造を続けて創業80年以上になるという「上田製菓本舗」。ご主人の上田昇さんに「パサン」という不思議な名前の由来などうかがってみた。

「京都に特有のものというより、京都で発展したお菓子、というのが正しいかもしれません。イギリスにパシャンズというお菓子があって、文明開化の頃に日本に伝わってきたようですね。
パシャンズはちょっと言いにくいから、『パサン』になったのだと思います。
上田製菓は私で3代目になるのですが、パサンは祖父が開発したものがベースとなっています。若狭から京都に出てきて、奉公人として修行中に、つくり方などを覚えたようですね。
原材料はカステラと同じ小麦粉、砂糖、卵の3つで、ようはカステラの堅焼き。三つの材料を同じ分量で焼くとカステラになるのですが、粉の配合を多くすることでパサンになります」

京都の正月に欠かせない謎のお菓子「パサン」って何?

表面はサクサク、口の中ではホロホロと溶ける、和洋折衷の味わいが特徴だ。
迎春気分を盛り上げてくれる、表面の鶴や松といったおめでたいモチーフは、なんと昇さんが奥様の正子(まさこ)さんとともにひとつずつ手描きしているそう! 限りなく手づくりに近いお菓子なのである。
奥の「御所梅」は京都御所の梅をイメージしたもの。華やかでありつつ上品な見た目も京都っぽい。

昭和の頃から愛されてきた 「パサン」だが、時代の流れとともに、パサンを製造する業者は減少しているそう 。現在では、京都市内でも「パサン」を製造する工場はほとんどなくなってしまったという。

「昭和30年代頃には、京都市内で10社以上はパサンを製造する工場がありました。当時はパサンの表面を彩る意匠も、専門の職人たちが、競っていろんなモチーフを描いていましたね。
時代とともに、職人も減ってしまいましたが……」と昇さん。

京都の正月に欠かせない謎のお菓子「パサン」って何?

京都の正月に欠かせない謎のお菓子「パサン」って何?

上田製菓本舗の看板商品、「コンパラスク」を手にする上田御夫妻。こちらは昇さんのお父様である2代目が開発したものだそう。昭和30年代に流行った学生たちのコンパか名付けたそうで、いかにも学生の町、京都らしいネーミングですよね。
コアラのイラストがほのぼのかわいいパッケージは、約30年ほど前に昇さんが考案したもの。

「昔は木製のガラスケースで販売するお菓子屋さんが多かったため、一斗缶に入れて卸していたんですよ。
昭和60年頃からスーパー販売が増えてきたため、このパッケージになりました。当時はコアラがブームっていうか、流行っていたんですね」とのこと。


京都の正月に欠かせない謎のお菓子「パサン」って何?

京都の正月に欠かせない謎のお菓子「パサン」って何?

巷ではラスクブームだが、上田製菓のラスクは265円で14枚も入っている! お財布にもお腹にもやさしい、コストパフォーマンスの高さが魅力だ。
「ロワイヤルグラスという、砂糖にゼラチンなどを加えたアイシングの一種を、餃子用のへらで1枚ずつ手塗りし、二度焼しています。砂糖が少しこげることで、香ばしさが出ます」とのこと。

なお、上田製菓本舗ではラスクにするパンを焼く日に、不定期で焼きたてのパンそのものも、わずかながら販売されているそう。
普通のパンではなく、ラスク用に配合なども考えたパンというのがとっても気になる……。出合えた人はラッキーかも!

なお、実は「上田製菓」は京都を拠点とする人気劇団、「ヨーロッパ企画」の脚本家・演出家として知られる上田誠さんのご実家。「上田製菓本舗」の店頭でもラスクがワゴン売りされていることもあり、ファンの間ではよく知られているのである。
「ヨーロッパ企画」のカウントダウンイベントでもお土産として、「迎春用パサン」を配布するなど、若者のあいだにもパサンファンが増えつつあるのだとか。

「迎春用パサン」は「上田製菓本舗」のネット通販のほか(12月下旬まで)、京都市内では毎年、クリスマス以降~年末の期間限定で「フレスコ」「ライフ」「マツモト」などのスーパーを中心に販売(少量生産のため、売り切れると終了だそう)。
と、そんなわけで知る人ぞ知る、京都のお正月の味、「パサン」。
あまり知られてないツウなおみやげとして、 年末に京都を訪れる予定がある人は探してみてはいかが。
(野崎 泉)