ブラックバス――釣りをする人はもちろん、釣りをしない人も名前くらいは聞いたことがあるだろう。淡水での釣りにおいて大人気の魚で、関東では霞ヶ浦、芦ノ湖、河口湖など、関西では琵琶湖がブラックバス釣りの名所として知られる。
これまでずっと「キャッチ&リリース」、つまり釣ったらその場で逃してやることが、釣り人の間での常識(条例などで禁止している県もある)となっている。
……が、あえて「キャッチ&イート」、ブラックバスを釣って食べることを実践している孤高の漢がいる。肝心の味はどうなのか、本人に聞いてみることにした。

もともとブラックバスは前世紀初頭、米国から芦ノ湖に移植されて全国に広まった魚。現在は法律で「特定外来生物」に指定されており、飼養や生きたままの移動・放流などが規制されている。つまり、釣ったらその場でリリースするか、さもなくば「殺生」である。


だが、「ブラックバスはおいしくない」というイメージがなぜか昔から流布しているように思う。実は筆者も子供の頃、「食ってもうまくないよ」と伯父に言われたことがある。淡水魚は全般的に独特の臭みがあり、ブラックバスは「とくに臭い」と指摘されたことがおいしくないイメージにつながっているのであろうか。

では、本当においしくないのか。琵琶湖のある滋賀県では、「ブラックバスは食べるとおいしい魚ですので、再放流しないで持ち帰り、食べてみてください」とPRしており、その調理方法まで提案する。また、同県立博物館内にあるレストラン「にほのうみ」では「琵琶バス料理」と題する「バス天丼」などが食べられる。
同店でも、「オオクチバス(ブラックバス)はスズキ系の白身魚で、調理を工夫することでとてもおいしく食べられる魚なのです」と説明している。

そのような背景の中、YouTubeでブラックバスを中心に「釣って食うシリーズ」の動画を多数アップロードしているのが「健啖隊」だ。彼(隊長)が地元の川でブラックバス釣りをしている模様や、料理風景、そして完成した料理をお酒と一緒においしそうに食べている様子が見られる。基本的に独りですべてをこなすのだが、釣りの合間に一匹の野良ネコ(健啖隊初のネコ隊員にしてチアリーダーのニャゴラ)も登場する。隊長持参のネコ缶や釣ったばかりの魚を丸ごと狙って来るのだ(エサをめぐってのニャゴラと隊長とのやりとりが面白いので必見)。

なぜブラックバスを釣って食べているのか尋ねると、「私がよく行く川にたまたまブラックバスが多く生息しており、試しに釣って食べてみたら意外においしかったのが事の発端です。
また、私の釣りに対する考え方が『釣りは遊びであると共に命を狩り取る漁でもある』ということにも関係しています」と答えてくれた。

「ブラックバス料理」と一口で言ってもたくさんある。なので、ベスト5を挙げてもらった。
1位「塩焼き」
――川魚はまずこれで! その魚の持ち味がわかります。

2位「竹輪」
――調理に手間はかかるが、白身魚の上品な味が生かせる。

3位「鶏の唐揚げ粉で作る唐揚げ」
――淡白な白身は唐揚げとの相性が抜群。


4位「くん製」
――大きいバスは身に多少の臭みがあるものだが、これを消してくれる調理方法はこれ。

5位「蒸してから熱したごま油かけ」
――メジナの調理方法として知られているが、それを同じく白身のバスに応用してみた。

どれもおいしそう。ところで、ブラックバス料理のコツはなんだろうか。
「それはただひとつ。私の動画“ブラックバスを釣って食うシリーズ”の中でも毎回説明していますが、腹の中の浮袋の付け根にある脂を取り除くことです」
この脂が臭みの原因なので、取り除くことでそれがなくなるのだという。
(やり方は動画を参照してもらいたい)

そして、釣り方のポイントは。
「釣ろうとする魚を研究してよく知ること。これに尽きます。われわれが他人とお付き合いするのと同じです。相手を知って理解すれば良いお付き合いができますよね。魚釣りもまたしかりです」
なるほど、ごもっとも!

「釣りは良き趣味です。
しかし、釣りは別名“遊漁”とも言い、漁(命を狩り取る行為)の側面があるのも事実。たとえ『キャッチ&リリース』であろうがなかろうが遊漁に変わりはありません。釣りにおいて、食う食わないは釣り人の判断に委ねられていますが、リリースが建前の釣りを楽しんでいる皆さんもそのことを胸にとどめて欲しいです。釣った魚を食う人ならなおさらです。“命を無駄にしない”。これが釣りのもっとも大切なマナーと心得てください」

健啖隊隊長の言うとおり、釣りは遊びであると同時に「命のやりとり」でもあることを忘れずに楽しんでもらいたい。そして、おいしく食べよう!
(羽石竜示)