11月23日、チベット仏教最高指導者でノーベル平和賞受賞者のダライ・ラマ14世が京都精華大学(京都市左京区)で学生らに向けて講演を行った。同大学創立45周年記念行事の一環で、約1600人が参加。
講演後は生徒たちの質問に答えたダライ・ラマのメッセージを一部だが編集して伝えたい。

~ダライ・ラマ14世講演会「世界を自由にするための方法」 ~

ーーダライ・ラマ14世 : 70億人の人間はすべて同じ人間。精神的にも肉体的にも様々な感情を持っているという点でも同じです。たとえ宗教や民族、国家、社会的地位など違っていても、2次的な違いは重要ではなく、同じ人間として幸せを求め得る権利があり、自由を分かち合う存在だと考えることが大切です。

私たちが、ダライ・ラマを“特別な人”だと思ってしまうとそこに壁ができ、またダライ・ラマ自身にもみんなと違うのではないかという思いが生まれ、心に不安や孤独を抱くことになる。地球に住んでいる人間はみんな家族、兄弟姉妹であると呼びかけた。
また、自由のためにはそれぞれ個人が創造力を発揮することが大切だと述べた。

ーーダライ・ラマ14世 : 想像力を高めるために必要なことは、物事を現実的にとらえ正しく理解すること。物事にはあらわれとともに、究極の本来の姿があります。あらわれだけにとらわれると、間違った判断をしてしまう。多くの問題を解決するためには現実がどのように存在しているのか、完全に理解することが大切です。また、自分の可能性や考えを高めるために、自由という要素は非常に大切なのです。


何事も先生の言うとおりにイェスマンになるのではなく、物事の本質を学生自身が頭を使って様々な角度から見る力をつけること。現実のありようを調べて分析することが大事。その問題がどのように存在しているか、心にわき上がる質問を先生に問いかけ、現実の理解を高めてほしいと話した。また、分析に必要なのは静かな心だと続けた。

ーーダライ・ラマ14世 : もし、心の中が偏見や欲望、執着、怒りや憎しみで一杯になっていたら、決して客観的な分析はできません。心の中にある怒りや憎しみの心は、常に不安や恐怖心を生み出します。
優しさや思いやりに満ちていれば、自然と心が開かれる。宗教に信心がある人もない人も人間であるならば、みんながお母さんのお腹から生まれてきた存在で、親の愛情受け育っています。私たちには愛と慈悲の思いのタネがうめこまれているのです。しかし大人になると、環境や様々な状況に影響を受けて優しさを忘れてしまう。愛と慈悲の心を持ち、個人個人が幸せな生活をすることで家族が幸せに。そして幸せな家族がたくさん集まると幸せな人間社会ができる。
それによって幸せな世界を作ることができるのではないでしょうか。

学生との対話も
学生1 ――後悔しないように精一杯生きていますが、生きることに肯定的になれない……。

ーーダライ・ラマ14世 : たとえば、さまざまな天災が起きている中、多くの人がその苦しみを分かち合おう、支援の手を差し伸べようとすることは、人間の良い資質を表しています。また、苦しんでいる人たちのために祈る行為は、人類はみんな一つであるということを示しているのではないでしょうか。物事の悪い面だけに集中して考え悲しむのではなく、世界全体を広い視野で見て多くの良い点に気付くと、必ず乗り越えていけるという力が湧いてくるのではないでしょうか。
それには、知性を使うことと他人を思いやる優しさが必要です。
これらを組み合わせれば、人生を意義あるものとして生きていけます。自信を持った人間になるために、できるだけ人を助け奉仕してください。できなくても決して迷惑をかけないでください。自分自身の人生を正直に透明感を持って生きていけば、多くの友を得て信頼されるでしょう。チベットには「9回失敗したら9回努力せよ」という諺があります。たとえ失敗しても立ち上がって頑張る勇気を持ってください。


学生2 ――平和な世界が実現するために、私たちができることは?

ーーダライ・ラマ14世 : 私たちは過去に様々な戦争を起こしてしまいましたが、敵をやっつけるということが勝利であるという考え方は、もはや時代遅れです。現在、お互いの国は依存関係にあり、敵を痛めつけることは自分自身を痛めつけることと同じ。もし、何か問題が起きたときは、「対話」をして解決する努力が必要で、決して武器を使用してはいけません。21世紀を平和にするには「対話の世紀」にしなければなりません。私は全世界から少しずつ武器がなくなっていくことは可能だと信じています。日本は原爆というひどい苦しみを体験されたご経験からも、指導的な立場に立って世界を導いていただきたい。

学生3 ――自由について

ーーダライ・ラマ14世 : 自由は真実の力によって達成されます。人間にとって自由は必要不可欠です。中国に関しても多くの教養人は、自由の必要性について声を上げています。温家宝前首相も中国には自由と民主主義が必要だと公式的な場で表現していますが、これも一つの大きな変化ではないかと思います。自由を求める人々の願いがますます高まっています。さまざまな国の変化を見てみると、世界はよりオープンなものでなくてはなりません。自由は個人個人の創造性に基づいて、達成されるべきものではないでしょうか。また、発言の自由も大切な要素であり、創造力に基づき平和を求める動きによって、自然に成し遂げられるべきものであると思います。

約2時間半にわたる講演を全て伝えることはできないのが残念だが、最後は質問者である学生ら一人ひとりと握手をし手を繋ぐ姿が印象的だった。
(山下敦子)