ドイツには豚の生食文化がある。もちろん生肉を食べる習慣は世界各地に見られ、例えばフランスではタルタルステーキといって生の牛肉をみじん切りにして薬味などを混ぜて食べる料理があるし、エチオピアではぶつ切り牛肉をそのまま食べる文化もある。
しかし豚肉の生食はなかなかお目にかかれない。

このドイツの豚肉料理は「メット」と呼ばれている。メットとは脂肪分を含まない豚の挽肉のことで、これをパンに塗り、みじん切りしたタマネギやパセリに塩コショウを振りかけて食すものだ。一体どんな味なのか。実際に食べてみた。

ドイツ、デュッセルドルフ市内にあるビアホールの名店「シューマッハ」。
ここでその「メット」を注文してみた。直径10cmを越えるくらいのパンの上に約2cmの厚さでメットが塗られている。値段は2.2ユーロ(約280円)。生肉といっても挽肉なので、食べる際に噛みにくさのようなものものない。お好みで塩コショウを加えるそうだが、まずはそのまま食べた。

口の中で溶けるようにメットが広がる。
食感はまるでネギトロのようだ。味と香りにクセもない。まぶされたタマネギの辛さとパセリが良いアクセントになりつつ、素材の味を繊細に舌へ伝えてくれる。日本人にも好まれる味だ。ドイツなので手元はビールだが、日本酒にも合わせてみたかった。

これだけでもおいしいが塩コショウを振り、少し味に変化を加えるとさらにいける。
記者自身、ユッケなどの生食料理は苦手だが、メットは問題なく食べられた。生の豚肉ということもあり食べるのをためらっていたが、食べたみたらおいしく、メットの味にハマった現地在住の日本人も多いそうだ。

メットはレストランなどでしか食べられない特別な料理というわけではなく、普通にスーパーの肉コーナーでパックされたものや量り売りで置かれている。値段も高くない。ただし肉の生食は(豚に限らず)サルモネラ菌、カンピロバクター、腸管出血性大腸菌感染症(O157など)のリスクも高いので、新鮮なものを新鮮なうちに消費したい。その点に気をつけた上でドイツに行く機会があれば、試しても損はないとおすすめできる食べ物だった。

(加藤亨延)