愛嬌いっぱいのこちらのタコさん、ただのマスコットではない。実はこれ、浴槽や食器洗いにも少量の洗剤でOKという、とってもエコなアクリルたわし。
かわいいだけではなく実用性も兼ね備えた優れモノだ。たわしとして使ってしまうのは躊躇してしまいそうなこの商品が今、被災した女性たちの心を少しずつ彩り始めている。

この「タコたわし」を作っているのは、南三陸町の女性のみなさん。被災して現在は仮設住宅に暮らす方々が、一つひとつ手編みで作り上げたものだ。影の立役者は、宮城県登米市を拠点に被災地の女性を支援する活動をしている「RQ被災地女性支援センター」のメンバーの方々。仮設住宅に住む女性が、やることもなく家に閉じこもりがちになっている現状を見て、楽しくコミュニケーションを取るためのきっかけとして、環境にも良く、楽しめるこの「エコたわし」をつくる講習会を開いている。


始まりは8月。メンバーのひとりが、気仙沼にてある女性と出会ったことがきっかけだった。以前から編み物や手縫いを趣味としていたその女性が雑誌を見ながら作っていたのは、バラを象ったアクリル製のたわし。「これがあるから一日することがあって、暮らしていけるの」と語る彼女の姿に背中を押され、支援活動を通じて交流のあった南三陸町・志津川の仮設住宅に住む方々と話をする中で生まれたのが、この地区の名産であるタコをモチーフにオリジナルのエコたわしを作るというアイデア。いくつもの試作を重ねながらタコの形をアレンジし、現在の「タコたわし」の原型が完成した。

早速、「てしごと講座」として講習会を開いたところ、たくさんの女性たちが集まり、大盛況。
真剣に編み物に取り組みながらも、参加者同士の交流の場にもなり、女性たちには自然に笑顔が生まれた。その後、当初のサイズよりも小さめのミニタコも完成し、講習会に集まった女性にも「かわいい」と人気者になっているのだとか。このタコは、避難所や仮設住宅でストレスを感じながら生活している女性たちの心の癒しとしての役割も担っているようだ。

このように作られた「タコたわし」の一部は、制作者の名前入りのタグ付きで、この商品が生まれたストーリーが記された小冊子と共に、すでにいくつかのイベントで販売されている。「RQ被災地女性支援センター」としては、この商品の制作による収入を、少しでも女性たちの経済的自立につなげたいという思いがある。そのため、手編みが得意な方や、商品として作る希望を持っている方にはどんどん編んでもらい、現金収入に結びつけようと考えているのだ。


まだ大量に生産できる状況ではないが、今後は10月29日(土)に南三陸町の仮設住宅のすぐ近くにオープンしたアトリエ「さざほざ(「和気あいあい」の意味)」を拠点に、仕事として制作したいという方々のサポートを強化していくとのこと。そして近いうちに、東京や仙台にもアンテナショップを構え、販売場所を広げてくという構想も持っている。これらの商品が私たちの身近な場所で手に取れるようになる日も近いかもしれない。

そして、現在進行中なのが、アクリルたわしのさらなるご当地展開。気仙沼市本吉ではマンボウ、気仙沼市大島ではツバキなど、それぞれの名産やシンボルをアクリルたわしで制作し、「ご当地たわし」として各地に広げていくという新展開だ。同じ編み物でも、地元住民が誇りに感じている名産品などをモチーフにしたものなら、制作する女性にとっても、より強く愛着がわき、楽しみながら取り組むことができるはず。
どんな名産品のたわしが登場するか、今から楽しみだ。

心と経済の両面で女性を支える役割を果たしている「ご当地たわし」の今後の展開、応援していきたいですね。
(池田美砂子)