アラブ文化圏の中でも政教分離を成し遂げ、他のイスラム国家とは一線を画している国、トルコ。日本人には普通に思える西洋的な風習も、他の厳格なイスラム教国の人からすれば、奇異に映ることも多いという。
そこで、イスタンブールにある旅行会社「オーバーシーズ・トラベル・エージェンシー」でうかがった。他のイスラム教国の人からは、トルコはどのように思われているのですか?
「同じアラブ文化圏、特にイスラム教の戒律が厳しい国から来た観光客は、トルコで少なからずカルチャーショックを受けるようです。まず疑問に思うことが、同じイスラムなのに女性はなぜスカーフをしないのかということ。ヨーロッパと同じように、街中でキスしているカップルもいます。それらには、大変驚かれますよ」

なぜトルコはこのような社会になったのか? 分岐点は1923年のトルコ革命。外務省ホームページによれば、初代大統領に就いたケマル・アタテュルクが、政教分離をおこなったことに由来するという。
当時彼は、宗教と政治を分離しなければトルコの発展はないと考えた。憲法からイスラム教を国教とする条文を削除し、アラビア語の筆記方法に代えてアルファベットを採用。一夫多妻性を廃止し、1934年には女性参政権を成し遂げた。政教分離は徹底されており、大学など公の場ではスカーフを着用することも禁じられている。また、飲酒は通常イスラム教で禁止されているが、トルコはその点に関しても緩やかだ。
「アルコールは法律で18歳から飲めます。
若い世代はビールやワインを好みます。同じくイスラム教で禁止されている豚肉は、トルコ国内のレストランでは扱いませんが、海外に出たときは食べる人もいます」

もちろん、文化的にはイスラムの慣習が残っているのも事実。街のいたる所にモスクはあり、時間になるとアザーン(礼拝の呼びかけ)が流れてくる。しかし、それら慣習も時代とともに変わりつつある。
「若い世代はモスクにあまり行きたがりません。行くとしても家族が行くから。
それに付き合って訪れる若者がほとんどです」

イスラム教の戒律が厳しい国の人たちから見れば、これらトルコの社会は、同じイスラム教国として信じがたいものかもしれない。しかし、古くから東西交易の要所として、様々な文物にふれてきたのがトルコという土地柄。時代とともに新たなスタイルを取り入れていくその姿こそ、トルコの魅力なのだ。
(加藤亨延)