「大酒飲みでハスキーボイスの人」の声を「酒焼けした声」なんて言うことがある。

たとえば、最近、テレビでの活躍を増やしている、酒とパチンコをこよなく愛する女芸人・椿鬼奴などもその一人だが、そもそも実際に「酒焼け」ってあるのだろうか。

自分自身、飲み会の後などによくガラガラ声になることがあり、喋りすぎを反省すること、しばしば。
これって「酒焼け」だろうか。そもそもどんなメカニズムなのか。

ヴォイス・ティーチャー(音痴矯正)で日本声楽発声学会会員、『「裏声」のエロス』(集英社新書)著者の高牧康さんに聞いた。

「『酒焼け』に含まれる『焼け』という言葉は、日焼け、胸焼けにも用いられるように、それらが原因となり、また、その部位が変化を生じて健全でなくなることを言います。 日焼けは、皮膚が持つメラニンによる保護能力を超えた日射を浴びたことによって起こる熱傷であり、胸焼けは、胃酸が上方に逆流し、食道をただれさせるために起こります。
つまり、『焼け』とは、粘膜などに刺激を与えて水分を奪い、健全な組織を破壊することなのです」
喉仏=「喉頭」は、気管と食道の分かれ道があるところ。 この喉頭は上下に動くことで、口から入ってきた食物は食道へ、空気は気管へと振り分けているという。
「その振り分けの第一の弁は喉頭蓋といい、喉頭の上のほうにあります。第二の弁は声帯です。声帯は声を出すためにあるのではなく、実は、気管に食物が流れ込まないようにするための弁の一つだったのです」

食べ物が間違って気管に入ってしまうことを「誤嚥」と言うが、これは、振り分けがうまくいかなかったことで起こるのだとか。
「本来、お酒を飲んだり、声を発したりをほぼ同時に行うということは、その振り分け作業がとても忙しいもの。
液体であるお酒は、喉頭蓋の弁だけではなく、第2の弁、声帯にまで流れ込んでしまうことがあるのです。 そこで、飲酒中のおしゃべりで、誤嚥の一種が起きているのかもしれません」

また、その際、お酒の中のアルコールそのものが声帯やその周りの粘膜から触れることもあり、さらに、酔うことで呼吸回数が増え、普段以上に空気の流出入が起こることで、気管の粘膜の水分を著しく奪うことにもつながるという。
「つまり、『酒焼けした声』とは、アルコール成分と呼吸回数の増加、さらには会話音量の増大などによって、喉をただれさせてしまった声なのです。声帯がただれている分、閉鎖が完全ではなく、声がかすれます。ハスキーな声は、個性ではなく、病的なのです」
!! ハスキーな声って、ちょっとカッコいいイメージもあったけど……。

では、酒焼けしないための飲み方とは?
「日焼け対策と似ていますが、肌荒れを防ぐためには、ビタミンA、C、Eの摂取が良いと言われているように、お酒を飲むときにそうしたものがたくさん含まれる肴や食事をとることが望ましいと思います。
フルーツカクテルや、サワーなどが人気があるのはビタミンCが豊富だからなのかもしれません」

酒飲みでおしゃべり好きの人は、ご注意を。
(田幸和歌子)