どこか懐かしくもあるフォークロックを演奏する男性4人に、謎の女性ダンサー2人。そんな個性的な6人組バンド「チャンギハワオルグルドゥル」(チャンギハと顔たち……以下“チャンギハ”)が、韓国でブレイク中だ。

2月下旬にファーストアルバムを出すや否や、大手CD販売サイトのデイリーチャートで1位に。去る3月12日には、韓国で権威ある音楽賞「韓国大衆音楽賞」において3冠を獲得するなど、このところ業界を大いに沸かしている。

彼らの音楽性を説明するにあたり、代表曲である2008年5月発表のシングル曲『サグリョコッピ』(安物コーヒー)を例に挙げたい。
まず、美メロに乗って聴こえてくる歌詞が新鮮。“ビニール製の床に足の裏がくっついて離れる”だの、“缶コーラを飲んだら中からタバコの吸殻が”だの、哀愁とユーモアあふれる詞世界はチャンギハならではのものだ。
また、独り言のようでしっかり音楽になっている絶妙なラップや、リズムを刻むように発せられるため息など、一曲の中に様々なアイデアが散りばめられており、ただの新人ではないことを伺わせる。

実際のライブでは、無表情で動きの少ない女性ダンサー「ミミシスターズ」を従え、珍妙でいてクールな踊りを披露。特に『タリチャオルンダ、カジャ』(月が蹴上がる、行こう)のユーモラスながらセンスも感じさせるダンス動画は、インターネットを通してブロガーの話題を集めた。

シングルCD『サグリョコッピ』は、工場生産ではなく1枚1枚手作業で作られた商品ながら、今年2月までに約1万3000枚を販売する結果に。
そして先月、満を持して発売したファーストアルバム『ビョルイルオプシサンダ(何事なく暮らす)』は、わずか3週で約1万2000枚を売り上げた。

彼らのヒットが、東方神起やBoA、BIGBANGなど、有名アーティストのヒット以上に関係者を驚かせた理由は、彼らがインディーズレーベルに所属するバンドだということだ。特に韓国は日本と違い、メジャーとインディーズの音楽シーンの間にある垣根は大きい。

チャンギハのCDを製作したブンガブンガレコードによると、「広報に100万ウォン(=約6万5000円)もかけられないインディーズレーベルのCDが、大手レコード会社を相手に販売枚数1位になったというのは、やはり相当なことだと思いますよ」。その時目立った話題作がなかったのも大きな理由であり、まだまだ大物アーティストに比べれば微々たる販売枚数と付け加えながら(とはいえインディーズで活動するミュージシャンとしては異例の数字である)、「今はブログなどによる口コミが、広報の大きな力になるのかもしれません」と話す。

また、チャンギハがここまで人気を得た理由として、彼らの音楽自体の魅力の他に、「インディーズ音楽界がこれまで蓄積してきた、インフラのお陰だと考えます」と同社は答える。
韓国でインディーズバンドが登場し始めたのが90年代初め。当時10代だった、インディーズシーンの現場にいた若者が、今や音楽業界を牽引するようになって、インディーズバンドがテレビで紹介されることも珍しくなくなり、彼らが出演する大中規模の音楽フェスも毎年開催されるまでになった。そうした地盤が、チャンギハの登場を生んだというわけだ。


彼らの活躍で、大きく刺激されたことであろう韓国音楽のインディーズシーン。音楽市場は不況と言われる昨今だが、自らの音楽を追求する個性的なバンドが登場することを、今後も期待したい。
(清水2000)