日本でも名の知られるクラブ音楽ユニット、クラジクワイ・プロジェクトを始めとし、いま韓国のリスナーの間では、クラブ系・カフェ系のおしゃれな音楽が人気となっている。
以前はマニアだけのものだった日本の音楽も、ここ数年で広く聴かれるようになった。
Fantastic Plastic Machine、MONDO GROSSO、Jazztronik、Nujabes、paris match、orange pekoeといったアーティストは既に知られており、韓国の洋楽チャートでも上位にランクインするほど。そうした日本発のおしゃれ系音楽は、本来の語源を離れざっくりまとめて「シブヤ系」と呼ばれ、多くのファンに愛されるところとなっている。

シブヤ系の空気をたっぷり吸い込んだ、韓国人男性2人組の実力派ギターポップユニット、それが「Peppertones(ペッパートーンズ)」だ。
ピチカート・ファイヴやシンバルズをこよなく愛するという彼らの、キラキラとしてウィットあふれるサウンドに、惚れこむファンが続出。2005年にインディーズレーベルから発表されたファーストアルバム『colorful express』は、発表2年後に「韓国大衆音楽賞」を受賞し、専門家からも高い評価を受けた。日本でも既にミクシィのコミュニティーが運営されるなど、静かだが熱い盛り上がりを見せている。

そんなペッパートーンズが12月15日、念願の日本版アルバムを発表することに。そこには思わず彼らを応援したくなるような、興味深いエピソードがあった。

ペッパートーンズの日本版アルバムをプロデュースするのは、ラジオDJ・古家正亨さんが主宰するインディーズレーベル「OLD HOUSE」。FM NORTHWAVE(札幌)の「Beats-Of-Korea」の他、FM COCOLO(大阪)、INTER-FM(東京)などで最先端の韓国音楽を紹介してきた古家さんは、彼らのCDを日本で発表するために自費で、しかも赤字覚悟でレーベルまで作ってしまったのだ。
カナダに留学した際、カナダ人DJから最新のK-POPを紹介してもらい、衝撃を受けた古家さん。すぐに韓国に留学しなおし、音楽を含めた韓国の魅力にどっぷりはまってしまう。
以来10年間、自身の番組でK-POPを紹介するなかで、CDを手に入れたいというリスナーの声に応えなければと思うように。
日本でも高い評価が期待されるペッパートーンズ、その日本版アルバム製作にあたり、古家さんは様々なレコード会社を訪れた。しかし反応は芳しくなく、それなら自分でやってやろうと決意する。

古家さんはこのアルバムを発売することで、儲けることはおろか、「1500枚の初回プレスを1300枚売り切っても、6万円の赤字」になると話す。そこまでして正式アルバムを出す意義は何なのか。彼はこう答える。

「韓国では現在、インディーズで活動するミュージシャンに対して印税がほとんど入らないんです。音楽で生活できるシステムができていないんですね。彼らが意欲的に創作活動できるよう、印税がちゃんとアーティストに渡る契約でCDを出したかった」
儒教の影響が強く、会社に就職することを当然のように考える韓国では、好きな創作活動をしながら自由に暮らすことへの、世間の風当たりはまだまだ強い。音楽で生活を維持することも難しく、才能がありながらも音楽活動をやめてしまう者の多い韓国の状況を、古家さんは少しでも変えたいと思ったわけである。
「韓国に恩返ししたいという気持ちもあるんですよ」と彼。ここまで聞いたら、日本版CDを買わないわけにはいかないではないか。


「日本には、日韓の違いに関わらず、いい音楽を素直に受け入れる地盤があります。これからも韓国の“本物”の音楽を紹介していきたい」と話す古家さん。OLD HOUSEはこれからも、今まで日本に紹介されてきたK-POPとは一線を画す、本物の音楽を届けてくれるに違いない。

まずはレーベル第1弾のペッパートーンズの奮闘、大いに期待しています。
(清水2000)