卒業のお別れグッズ「サイン帳」はいま……
外から見たら、昔と変わらない「サイン帳」ですが、どれもこれも中身は迷わず書ける「親切設計」です。
かつて、卒業シーズンの定番グッズといえば、「サイン帳」だった。
私たちが子どもの頃のサイン帳は、白や水色、ピンク色などの紙に、地味なイラストが入っているリーフのファイル式が定番。
表面には「住所、名前、電話番号、生年月日、血液型」を書く欄が、これまた地味に設けられ、裏面は白紙の自由スペースが普通で、この時期の教室ではお互いに書きあうため、リーフが飛び交っていた。

いまどきの子も、やはりサイン帳の交換なんてやるんだろうか?
調べてみると、サイン帳は文具売り場で相変わらずたくさん売られていたが、その形式は昔とは全然別モノ。
どれもこれも、ものすごく「親切設計」。表紙やデザインは様々だが、メーカーが違っても、中身はほぼ同じようなつくりなのだ。

たとえば、表面には、従来の「名前、生年月日」などの個人データに加え、こんなスペースがあるのが定番。
「わたしは○年○月○日うまれ。
正座は○○座で、血液型は○型だよ→。ニックネームは○○! 性格は○○だと思ってるケド、よく○○っていわれるかな★ もし自分をフルーツにたとえるなら○○で、有名人にたとえるなら○○かも」
導かれるままに解いていくと、文章ができてしまう、まるで虫食い問題のようだ。

裏面には、「もしも朝おきて赤ちゃんになってたらどうする?」「もしもまほうつかいになれたら何をする?」といった「Ifコーナー」や、「カワイイ」「おもしろい」「たのもしい」などの言葉から連想するヒトの名前を書く「連想問題」。
「あなたは道をあるいていて、うっかりころんじゃいました! さて、ポケットからは何がとびだしたかな?」「あなたのケータイの待ち受け画面は次のうちどれ?」といった心理テストもある。

また、「プリクラの決めポーズを2、3コは持っている」「プリクラの機種の名前を3コ以上は言える」「ギャル語を使って話せる」といった「ギャル度診断」なんてのもアリ。

さらに、共通して設けられているのが、恋愛に関する質問コーナーだ。

「コクハクしたことがある/コクハクされたことがある/チュウしたことがある/今好きなヒトがいる/恋人がいる/何歳で結婚したい?」
きゃ〜〜〜〜ッ!! そんな恥ずかしいこと、教えられるかよッ!!……と、32歳にもなって、ものすごい抵抗感……。いまどきの子どもたちは、こんなことを公表し合うのですか。そして、大人になるまでとっとくのですか。

しかも、こうしたフォーマットでスペースはほとんど埋まり、フリースペースは、裏面の下のほうに作られた、わずか2、3割程度のみ。
昔は真っ白な紙を渡され、「書くことないよなぁ」などと頭を悩ませながら、書くのが、ある種「サイン帳」の醍醐味だったのに……。
家に持ち帰って、何色ものペンを使ってキレイに書いてきてくれる人がいたり、思わずホロリとする内容があったり、その一方で、クラス全員に「うんこ」とか書く無作法者がいたのが、面白かったのに……。


今のサイン帳は、とりあえず全員が「及第点」をとれるつくり。ラクな半面、寂しい時代になったのだなぁと、しみじみ思ってしまいました。
(田幸和歌子)