空気を読むこと、協調性、和を乱さないこと……。組織に生きるうえで大事とされるこれらの考え方。

しかし、「個性」を求められる芸能界においては、必ずしも正解とは限りません。時には予定調和を崩すような「賭け」に挑むことも、売れるためには必要なのです。

先ごろ、複数の女性との不倫疑惑が週刊文春によって報じられた雨上がり決死隊・宮迫博之も、まさに、そんな「賭け」に勝ったタレントの一人。
宮迫のターニングポイントは、今から18年前の『ガキの使い』にありました。

あるドッキリ企画が発端だった


1999年1月。『ガキの使い』で『田中だよ!全員集合~!』というオープニングが放送されました。
内容としては、普段温厚な田中にあえて横柄な司会者役をやらせて、「叩いてかぶってジャンケンポン」や「水中碁石取り」などのゲームにチャレンジするガキ使レギュラーメンバーを、ツッコんでいくというもの。


しかしこれは、田中へドッキリを仕掛けるためのダミー企画。企画とはいえ、あまりに無礼な態度を取る田中に、浜田がブチ切れるという筋立てになっていたのです。

けれども、優しすぎる性分が邪魔してか、田中はなかなか毒を吐くことができません。最終的には、「みんなひどかった。でも、それ以上に僕の方がひどかった。すみませんとお詫びを…」と謝る始末。

ここで機転を利かした浜田が、進行のグダグダさ加減に激怒する演技をします。結果として、本当に田中の司会がどうしようもない出来だったこともあり、異様にリアルなドッキリになったのでした。

一世一代の賭けに出た宮迫博之


雨上がり宮迫が登板したのは、この企画における第2弾。とは言っても、今回はドッキリではありません。山崎邦正(現・月亭方正)が浜田のように後輩へ威厳を示すべく、雨上がりの2人にブチ切れるものの、返り討ちにされるというコント企画です。

当初、この話が来たとき、宮迫はスタッフから田中版の未編集版VTRを渡されたといいます。そこで見事なまでにスベッている田中を見て「自分はこうなりたくない」と思ったそうです。

そこで、「ダミー企画自体を面白くしてやる」と決意。スタッフと打ち合わせすることなく、超スパルタな『雨上がりだよ!全員集合~!!』を実践することにしたのです。

当時の雨上がりといえば、全くの泣かず飛ばず。同じ天然素材の元メンバー・ナインティナインをはじめとした後輩たちが次々と売れていくのを、歯噛みしながら見ていた時期でした。
そんな背景もあり、宮迫は、是が非でもチャンスをものにしようと必死だったに違いありません。収録前には相方の蛍原に「万が一、ダウンタウンさんにブチ切れられたら、すまん、俺、大暴れする」と宣言し、引退覚悟で“戦い”に臨んだわけです。


そして始まった決死のスパルタ指導


宮迫は最初の趣旨説明の段階から「おい、ハゲ! お前なんでハゲや?」と、松本の頭を片手で鷲掴みにして、グリグリと回し始めます。
続けざま、浜田に因縁を付けて謝らせた挙句、脳天をメガホンで殴打。お笑い界の帝王として君臨していたダウンタウンに、企画とはいえこれほどの暴挙を働く若手芸人は、どこにもいませんでした。ゆえに、宮迫曰く「スタッフがピリついていた」といいます。

けれども、ダウンタウンの2人が笑ってくれたことにより、収録はそのまま続行。結果として、このときの放送回は久々に視聴率20%を超え、雨上がりには次の週、仕事が5つも入ってきたそうです。

その中の一つには、雨上がりをはじめ、山口智充、ガレッジセールを一躍全国区にした『エブナイ』(後のワンナイ)も含まれていたとのこと。宮迫は戦いに完全勝利したのでした。

それからというもの、売れっ子芸人としての道を歩み続けている宮迫。浮気などにうつつをぬかさず、また、あの時のハングリー精神を取り戻してもらいたいものです。
(こじへい)

※文中の画像はamazonより雨上がり文庫 (小学館文庫)