90年代から00年代にかけて、アイドル、女優として活躍した川越美和が10年前、35歳で孤独死していたことが報じられた。

デビューは1988年、キャッチフレーズは“天然的美少女”。
4枚目のシングル「夢だけ見てる」で日本レコード大賞新人賞を受賞した。ワンレン、ボディコン全盛の狂乱のバブル時代の最中、肌の露出が少ない正統派アイドルとして登場し、現在40歳前後の人たちには意外なほど強く記憶が刻まれている存在である。

それだけに今回の報道にショックを受けている人も少なくない。

『時間ですよ』で共演した川越美和とSMAP


川越のドラマの代表作といえば新人時代に出演した『時間ですよ 平成元年』(89年)だろう。「夢だけ見てる」も同ドラマの挿入歌である。

『時間ですよ』は森光子主演、久世光彦演出によるドラマシリーズ。久世が「脱ドラマ」的な手法で作り上げた作品の一つで、“トリオ・ザ・銭湯”こと堺正章や悠木千帆(樹木希林)らが何の脈絡もなく放つギャグが人気を呼んだ。
天地真理、浅田美代子らの出世作でもある。
1970年に最初のシリーズが放送されたから何度となくリメイクされており、とんねるずをメインキャストに据えた『時間ですよ ふたたび』(87年)と『時間ですよ たびたび』(88年)も制作されて話題を呼んだ。

89年の『時間ですよ 平成元年』はキャストを一新。森光子演じる「梅の湯」の女将・宝田ウメの長男役にチェッカーズの藤井郁弥(フミヤ)を迎え、長女役の篠ひろ子のほか、谷啓、地井武男、由利徹、かまやつひろし、小林亜星らが脇を固めている。

川越美和の役どころは、「梅の湯」のお手伝いの金沢美和。役と本人が同じ名前でお手伝い役というのは、ミヨコ役の浅田美代子(73年版)とまったく同じ。
川越に対する制作陣の期待のほどが窺える。
挿入歌の「夢だけ見てる」は作詞に小椋佳、作曲に玉置浩二を迎えた豪華版。劇中で弾き語りをするシーンも用意された。

なお、このとき次男役だったのがデビューしたばかりのSMAP・中居正広である。本人役だった『あぶない少年III』(88年)を除けば、本作が初めての本格的なドラマ出演である。

また、香取慎吾と草なぎ剛も中居の友人役で出演しており、香取が『すべらない話』で披露した草なぎが収録に8時間も遅刻したエピソードはこのドラマのことだ。


たけし、チェッカーズ、光GENJI、SMAPが共演!


『時間ですよ 平成元年』はDVDされておらず、再放送も非常に少ないので見る機会は絶無に近い。
ただし、90年1月に放送された正月特番『時間ですよ 新春スペシャル 梅の湯の結婚式はギャグでいっぱい』は横浜市の放送ライブラリーで見ることができる。

正月特番ということで森光子の挨拶からスタート。メインキャストたちが乱闘になる中、「おかみさーん、時間ですよー!」と決め台詞を叫ぶのは川越美和だ。

チェッカーズが突然ライブを始めたり、何の脈絡もなく光GENJIが登場してスタジオ狭しとローラースケートで走り回りながら歌い踊ったりと、「脱ドラマ」と正月特番らしい豪華ゲストが入り交じる構成。全員で登場したSMAPも初期の持ち曲「BANG-BANG-BANG」をフルコーラスで歌っている。

ビートたけしがガダルカナルタカを引き連れて女湯に乱入するシーン(というかコント)では、全裸の女性たちが乱舞する中、たけしは女湯に潜り、タカは全裸になってみせた(股間にはモザイク)。
今なら絶対にBPOに苦情が寄せられるレベル。

後半は婚約者・つみきみほとの結婚式を控えたフミヤと、借金を抱えた幼馴染・高杢禎彦の友情ドラマ。
「オレたち友だろ! チンポコ比べ合っただろ! 弱いところもダメなところも全部知ってるよ!」とフミヤが叫び、高杢と殴り合いになったりする(最後は森光子が仲介して和解)。チェッカーズの行く末を思うと感慨深いシーンだ。

川越の死に中居正広は何を思う?


川越はトリオ・ザ・銭湯として柄本明、広岡由里子とともに被り物をして漫談をしたり、カメラに向かってストーリーを説明したりと要所に登場。
中盤のクイズコーナーではアシスタントを務めていた(司会はドラマと一切かかわりのない高田純次)。


大団円の後は、巫女さんの姿で「夢まで見てる」の弾き語りを披露。豪華キャストが集う騒然としたドラマをしっとりと締めてみせた。ラストも朗らかに「おかみさーん、時間ですよー!」と叫んでいる。

ヒロイン・つみきみほのシャープで都会的(サブカル的でもある)な容貌に比べ、川越美和のルックスはいかにも野暮ったくて日本の下町の風景を思わせる。守ってあげたい、幸せになってほしい、と思いたくなるルックスとでも言うのだろうか。それだけに今回の訃報はせつなかった。


川越がデビューしたのは88年、このドラマで共演したSMAPが結成されたのも同じ88年だ(デビューは91年)。いわば川越とSMAPは同期生である。その後の“アイドル冬の時代”もともにサバイブした。

89年にデビューして川越とドラマでの共演の経験もある中江有里は、川越の訃報に接して涙とともにコメントしたが、同期生である中居正広のコメントも聞いてみたいところだ。

なお、放送ライブラリーでは他にも川越が大鶴義丹とペアを組んで出場した『クイズダービー』15周年記念回なども視聴可能。在りし日の姿を見に行ってみてほしい。