キムタクの真骨頂を見た気がしました。

それは、4月10日に放送された特番『さんタク』(フジテレビ系)でのこと。
明石家さんまの“一日付き人”となったキムタクは、さんまがMCを務める大阪・毎日放送のラジオ番組『ヤングタウン土曜日』の収録現場に帯同。途中、おつかいを頼まれます。

この日、ゲスト出演していたのは、先ごろ2年ぶりに芸能界復帰を果たした元モーニング娘。の道重さゆみ。おつかいから帰ったキムタクは、道重に「おかえり」と一言添えて、家庭用のカラオケ機を手渡します。
キムタクは、収録の前室で道重が「(復帰の理由は)歌は苦手だけど、また歌いたいと思ったから」とさんまに話していたのを傍から聞いており、その想いを汲んでサプライズを仕掛けたのでした。


このスマートさとさりげなさ。そして溢れんばかりの自信こそが、木村拓哉という男の20年来変わらない魅力ではないでしょうか。
振り返ってみれば、90年代後半~00年代前半。私たちは『ロングバケーション』『ラブジェネレーション』『ビューティフルライフ』といったドラマで幾度となく、キムタクがこんな風にイケメンオーラ全開で、カッコいい都会の男役に扮する姿を目の当たりにしてきたものです。

そんな、いかにもキムタクっぽいラブストーリーが全盛だった1997年。逆にキムタクっぽくないドラマとして話題になったのが、フジテレビ系で放送されていた『ギフト』でした。


異色の社会派サスペンスだった『ギフト』


いったい、どの辺がキムタクっぽくないのかというと、ストーリーが社会派サスペンスものになっている点です。

横領した51億円と共に失踪した代議士・岸和田(緒形拳)の共謀者で愛人の奈緒美(室井滋)は、岸和田の部屋にあるクローゼットの中から血まみれの青年(木村拓哉)を発見。

記憶を失っていた青年は、奈緒美に「早坂由紀夫」と名付けられ、特殊な「ギフト」を配達する届け屋としての役割を与えられます。その任務を遂行する中で、由紀夫はさまざまな人と出会い、次第に不良少年だった頃の記憶を取り戻していく……というのが話の大枠。

松田優作の『探偵物語』を意識したヒーロー像


『ギフト』の脚本を手掛けた飯田譲治氏曰く、松田優作の『探偵物語』のようなアウトロー的ヒーロー像を描きたかったのだとか。

たしかにキムタク演じる由紀夫は、男の色気と茶目っ気を同居させた、松田演じる工藤俊作を意識したかのようなキャラクター設定でした。そして主題歌に起用されたのはイギリスのミュージシャン、ブライアン・フェリーの『TOKYO JOE』。
その軽快な曲調に乗り、ブランドモノのスーツに葉巻というスタイルでマウンテンバイクで都会を走り回る姿も、どことなく『BAD CITY』をBGMにバイクを乗り回す工藤ちゃんを連想させます。


こんなセクシーさとダンディズムムンムンの全盛期キムタクを中心に据え、室井滋、篠原涼子、小林聡美、忌野清志郎らがメインキャストとして、桃井かおり、藤谷美和子、鈴木京香、さらには無名時代の加藤あい、宮藤官九郎もゲストとして出演したドラマ『ギフト』。
脚本と演出の素晴らしさも相まって、間違いなく、後世に語り継がれるキムタクの代表作となるはずでした。が、しかし……。

世間を騒然とさせた当時13歳の少年による刺殺事件


事件が起きたのは、1998年1月28日。栃木県黒磯市(現那須塩原市)の中学校で、当時13歳の男子生徒が女性教諭を刺殺しました。腹部、胸、背中など、少なくとも計7か所をめった刺しにするという、凄惨な事件でした。


凶器に使用されたのはバタフライナイフ。事件後、加害少年は「『ギフト』でキムタクが器用にバタフライナイフを振り回しているのを見て、かっこ良さを見出した」と供述。

これを受けてマスコミが「ドラマが少年に悪影響を及ぼした」と報道すると、ただちに再放送中だった『ギフト』は放送中止となり、番組内容は変更。それからというもの、一度も再放送されず、かつDVD化もされていないという状況が現在まで続いています。(※VHS化は事件前の1997年11月28日にされています)

このように、まるで社会悪を生み出した根源のように見なされて、闇へと葬り去られた『ギフト』。しかし本来、この作品が描いていたテーマは「過去との決別と再生」でした。
キムタク演じる由紀夫が、不良少年だった過去を捨て去り、新たな自分へと生まれ変わろうとする話だったのに、問題作扱いされるのは、なんとも不本意というもの。

放送から20年経った今、長年にわたるいわれのない罪からこの名作を解放し、動画配信やブルーレイなど、何らかのカタチで視聴しやすくして欲しいものです。
(こじへい)