心霊・怪奇特集がお茶の間をにぎわせ、織田無道や宜保愛子といった眉唾な霊能力者がのさばっていた時代も、今は昔。
いつの間にか、すっかり見かけなくなったオカルト特番ですが、そういった番組におけるオカルト否定派として君臨していたのが、上岡龍太郎でした。
自称「霊感がある」「幽霊を見た」とのたまう、現実社会では末席に位置していそうな素人たちを、彼ら以上の強力無比な屁理屈で論破していく様は、圧巻の一言。

「広島の球場で、バースがホームランを打つはずがない。『アメリカのヤツにホームランなんか打たすか!』と思うてね、原爆の霊が止めるはずやのに」といった軽妙な笑いも挟みつつ、次々とオカルト論者たちをメッタ斬りにしていったものです。

そんな上岡の「霊嫌い」が沸点を通り越し、ついには、番組収録中に激怒&帰宅してしまうという事件が、今から23年前の『探偵!ナイトスクープ』で発生しました。

上岡龍太郎が激怒したVTR


事件は1994年4月29日、「恐怖の幽霊下宿」なるVTRが放送されたときに起こります。これは、下宿部屋に出現する幽霊に悩む医大生の依頼を受けて、桂小枝が検証に訪れるという映像。
しかし、検証とは名ばかりで、自称・霊媒師を呼んで幽霊がいるか聞き込みをしたり、桂きん枝と小枝が除霊師に扮してふざけたりするだけの、単なるお遊び的な内容に終始。
これに局長・上岡が激怒したのです。

「(このVTRで)何の実証もされてないわけでしょ?これをつくったディレクターは何を結論づけようとしているわけですか?」「『やっぱりお化けはいてる』という風にしたいわけですか?」と食って掛かります。

このピリッとした空気を和ませようとしたのか、小枝が「いや、そんなん、どうでもええと思うんですけど。面白かったらええというやつだと思うんですけど」とおちゃらけた調子でコメント。これがさらに上岡をヒートアップさせることになりました。

「いや、だから、テレビのそれが一番僕はいかん!面白かったらいいわけやなくて、面白くてもそれによって何らかの影響力を与えると言う事を常々考えとかないかんわけですよ!」と、さきほどよりも強い語気でまくしたてます。

ついには「ディレクター誰?」と担当Dを呼び出して、「ものすごい危険なテレビですよ、これは」と公開収録中に説教を開始。ついには「こんなこと許せません!絶対許せません!」と言ってスタジオを後にしてしまうのです。

先見の明があった上岡龍太郎


霊的なもの・超常的なものを忌み嫌い、タレントになってからは、ことある毎にメディアでオカルトを扱うことの危険性を説くようになった上岡。

折しも、その1年後。麻原彰晃こと松本智津夫が、地下鉄サリン事件の首謀者として逮捕されました。このオウム真理教教祖が、国家転覆を企てるほどに力を蓄えられたのも、もとはといえば、かの有名な“空中浮揚写真”が写真週刊誌に掲載され、それ以降、面白がって様々なマスコミが(あのビートたけしまでも)彼を持ち上げたことにより、教団の名が全国に知れ渡ったからに他なりません。


上岡がいうように、大した実証もせずに不可思議なものをもてはやすことの怖さを、国民はこの時になってようやく体感することになるわけです。
(こじへい)

※イメージ画像はamazonより上岡龍太郎 話芸一代