1997年1月、『踊る大捜査線』(フジテレビ系)がスタートした。放送終了後も数多くのスペシャルドラマ、劇場版が作られた大人気シリーズである。

このドラマの何が新しかったのか。放送開始20年目となる今、考えてみたい。

従来の刑事ドラマとは違った『踊る大捜査線』


『踊る大捜査線』は警察を舞台としながらも、従来の刑事ドラマとはまったく異なる作りがなされていた。刑事ドラマの定番といえば、名物刑事による犯人との駆け引き、逮捕に至るまでのド派手なアクションシーンなどであったが、このドラマではそうした場面はほとんど存在しない。

『踊る大捜査線』が描くのは、日常の仕事を淡々とこなす会社員(サラリーマン)としての刑事の姿だ。織田裕二演じる主人公の青島俊作は、元営業マンという異色の経歴を持つ。
彼の周りを固める同僚たちも、負けん気の強い先輩警察官・恩田すみれ(深津絵里)、渋い風貌を漂わせるベテラン刑事・和久平八郎(いかりや長介)、東大卒のエリートながら親しみのあるキャラクター・真下正義(ユースケ・サンタマリア)など、個性豊かな面々だ。


『踊る大捜査線』で描かれた縦割り行政


ドラマで強調されるのは、青島が勤務する所轄の警察署(湾岸署)と、上層部にあたる警視庁との「縦割り行政」だ。所轄は"支店"、警察庁は"本店"と言い換えられるように、所轄は警察庁の小間使いであり、命令に絶対服従を強いられる様子が描かれている。
警察署長も、板挟みの中間管理職でしかない。ひたすら"本店"の顔色をうかがう署長、副所長、刑事課長からなるスリーアミーゴス(北村総一朗、秋山晴海、小野武彦)も話題となった。

警察庁の官僚の一人として、青島の前に登場するのが室井慎次(柳葉敏郎)である。室井は、東大卒が圧倒的多数を占めるキャリア官僚の中においては、異色となる東北大卒だ。
最初は支店の人間に冷淡な態度を取っていたが、青島の熱意にほだされ、現場の改革を進めようとする。
(しかし、そのことが周囲のキャリア官僚から疎まれる原因ともなった)。

会社員が共感できた『踊る大捜査線』


現場に理解のない上層部、やる気がないように見えて実は部下思いの上司、頑固者だがいぶし銀の先輩、仕事の大部分を占める地味なルーチンワーク、その中で見出される仕事へのプライド、自らの立ち位置ーー
警察関係者でなくとも、会社員を経験した者ならば、誰もが共感できる点がこのドラマにはあふれている。
一見すると地味になりがちな世界をテンポよく処理したのは、萩本欽一の弟子としても知られる、脚本家の君塚良一。"フリオチ"の効いたコントの手法を脚本に取り込み、『踊る大捜査線』を見事に作り上げたのだ。

ところでこのドラマは、フジテレビが移転直前だったお台場を中心に撮影された。当時のお台場は、1996年に開催予定だった世界都市博覧会が中止となり、フジテレビ(FCGビル)をはじめ、いくつかのビルがぽつんと建つだけ。
そんなお台場の荒野は、現実とも虚構ともつかない『踊る大捜査線』の舞台にとても似合っていた。


※イメージ画像はamazonより「踊る大捜査線 THE FINAL」 COMPLETE BOOK (ぴあMOOK)

「踊る大捜査線」キャスト、スタッフ、主題歌


演出: 本広克行/澤田鎌作
脚本: 君塚良一
音楽: 松本晃彦
出演: 織田裕二/柳葉敏郎/深津絵里/水野美紀/いかりや長介