1998年、朝のワイドショー『ルックルックこんにちは』(日本テレビ系)の司会を務めていた岸部四郎が突然番組を降板した。理由は自己破産。
その後、番組関係者も連絡の取れない行方不明状態となった。

岸部四郎発見! 第一声は「バイアグラをただでくれ」


岸部の音信不通は数週間にわたり、世間では自殺説まで流れていた。そんな中、岸部は意外な形で発見される。『ルックルック』のスタッフに、岸部本人から「バイアグラをただでくれ」という電話があったのだ。

自己破産によって財産をすべて差し押さえられた岸部は、自殺を心配する世の中の声とは裏腹に、絶倫を希求しながら日本国内を逃亡していたのだった。

騒動後に暴かれた岸部四郎の本性


岸部に自殺説が発生したのは、『ルックルック』の司会ぶりに人のよさそうな雰囲気がただよっていたからだ。
芸能人のスキャンダルが報じられても、決して批判コメントは発しない。ヨネスケの「隣の晩ごはん」のコーナーにクセの強い素人が出ても微笑むだけ。
「涙のご対面」のコーナーで桂小金治が号泣していても、黙って深くうなずくだけ。187センチの長身を猫背気味にして淡々と司会進行していく岸部の姿は、草食系の心優しい人にしか見えなかった。
行方不明直後は、自己破産の原因はたくさんの知り合いの連帯保証人になったからとも伝えられたため、「あの優しそうな岸部さんなら責任を感じて自殺してしまうかもしれない」と多くの人が思い込んでしまったのだ。

ところが騒動後に明らかになった岸部の本性はとんでもない肉食系強欲男だった。基本的に金儲けにしか興味がない。目利きでもないのに高価な骨董品を買いあさる。
とにかく高価な肉しか食べない。芸能人のスキャンダルを批判しなかったのは、批判しても金になるわけではないからだった。

ゲスの極み岸部誕生


破産・行方不明の後、様々なメディアで岸部の実態が暴かれていった。中でも積極的に岸部問題を取り上げたのが、浅草キッド司会のバラエティ番組『未来ナース』(TBS系)だった。

『未来ナース』に出演した岸部は、『ルックルック』の司会ぶりとは正反対の嫌み全開男に変貌していた。破産するまでの30年間、芸能界の一線で活躍してきた秘訣を聞かれると、岸部はロケバスの中で弁当を食べながらとうとうと語り始めた。

「例えばこのロケ弁。
どんなに安モノや言うてもスタッフに『なんや! こんなシケたロケ弁、誰に食わせると思ってんや!』ってボクがそんな事言ったら、三十年間は芸能界には居れないのよ。そういうこと思っても言わないできたから、この世界に居れたわけ。こんな弁当、杉良太郎だったら無言で帰ってますよ」(浅草キッド『お笑い男の星座』より引用)

大勢のスタッフのが乗車しているロケバスの中で遠回しに安物の弁当に文句をつけ、挙句の果ては関係のない杉良太郎が悪人かのような責任回避の言い訳を付け加える。半端ではない嫌みテクニック。ゲスの極み岸部、誕生の瞬間だった。

嫌みタレントとして華麗に復活


その後、岸部は嫌み系タレントとしてバラエティ番組で見事に復活していった。
『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』(日本テレビ系)の企画コーナーでは、落とし穴に落ちながら「オレを誰や思てんねん! 元金持ちやぞ!」「もうカネしかないなあ!」などの名言を残した。
「岸部四郎の落とし穴」は、『ガキの使い』の企画の中でも「入れ歯万引きGメン・ピカデリー梅田」や「板尾の嫁」と並んで人気が高い。

岸部は2009年ごろから体調悪化のためテレビ出演をひかえている。しかし時々『情報ライブ ミヤネ屋』(日本テレビ系)などに出演し、そのたびにネットを小炎上させるなど存在感をしめしている。岸部四郎は根っからのエンターティナーであり、芸能界を極めたレジェンドのひとりなのだ。
(近添真琴)

※イメージ画像はamazonより西遊記 - さいゆうき - 2 (1979) Vol.2 (第3話 第6話) [レンタル落ち]