今聴いても、全く色あせない名曲です。日本テレビ系『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』から誕生したユニット、ブラックビスケッツの『Timing』。

改めてクレジットを確認すると、これほど豪華な製作陣が揃っていたら、優れた曲になるのは必然だったと納得します。作詞は「青いイナズマ」「SHAKE」など、SMAPの代表曲を多数手がけた森浩美。作曲は、後にEXILEへ数々の楽曲を提供することになる中西圭三が務めています。
そんな曲を、当時、視聴率20%台連発のオバケ番組で、強力にプッシュしていたのです。売れない訳がありません。

苦難を乗り越えた物語性も人気の要因に


楽曲の良さもさることながら、加えてブラビには、CDデビューに至るまでの物語がありました。メインボーカルを務めたビビアン・スーに、南原清隆扮する南々見、キャイ〜ンの天野扮する天山……。
視聴者が彼ら3人の物語を目撃し、一緒に試練を乗り越えたかのような、一種の“共有感”を味わったために、CDが売れ、ブレイクに繋がったのだとも考えられます。
はじめは、彼らよりも前にデビューしていた、千秋、内村光良、キャイ〜ンのウドからなる「ポケットビスケッツ」の敵役として登場するという、いかにも色物的な立ち位置だったのが、いつの間にか、番組の中でもかなり主要なポジションを担うようになっていたブラビ。そのきっかけとなったのは、間違いなく、「木彫りのブラビ像」手売り企画です。

一体5万円の「木彫りのブラビ像」


当時、既にCDデビューを果たして人気のあったポケットビスケッツは、安価で購入できる「ポケビグッズ」を出していました。それに対抗するため、ブラビもグッズを製作します。それが「木彫りのブラビ像」。何でも、その道数十年の名匠が丹精込めて作り上げた逸品らしく、価格はポケビグッズの安価路線とは一線を画す、一体5万円。
合計20体、全て売りさばかなければデビューできないというかなり過酷な条件が付きつけられました。

当時、東京の浅草にあった日テレのアンテナショップ「なんだろうショップ」にも、この像が置いてあったのを覚えています。普通の商品が陳列された棚やラックとは異なる、天井付近にある壁側面のヘリのようなところに、まるで神棚のような威光を湛えながら鎮座していました。ガラスケースの中、さながら店の守り神といった風情で佇む、件の木彫り像に「テレビで見たとおりだ…」と幼心に感動したものです。

「台湾に帰る!」泣き出したビビアン・スー


しかし、やはり5万円は高すぎます。今だったらヤフオクなどでプレミアが付くかもしれませんが、この時はブラビ自体がデビューもブレイクも果たしていないため、アイテムとしての価値はほぼゼロ。
当然全く売れません。にも関わらず、果敢にブラビメンバーが売り込んでいる様子は、不憫の一言に尽きます。
特にビビアンが街頭で声掛けをしている姿は、見ていられませんでした。本人であることを知られぬよう、目深に帽子を被って売り子に扮し「いかがですか~…」とつたない日本語で、道行く人を呼び込んでいる様は、マッチ売りの少女そのもの。
結局売れずじまいで「台湾に帰る!」と泣き出してしまうビビアンと、「悪魔の木彫り像だ!」と叫ぶ南々見……。これまでは悪役だったのに、一転、お茶の間の同情を誘う、悲劇のグループになった瞬間でした。


その後、見事20体売り切ったものの、今度は一体10万円の「クリスタルブラビ像」を売らされたり、台湾のレコード会社でデビューを図るも門前払いを喰らったりと、苦難が続いたブラックビスケッツ。しかし、辛酸を舐めるその過程があったからこそ、多くの視聴者の共感を呼び、結果、デビュー曲の『STAMINA』がオリコン最高位2位、『Timing』がCD出荷枚数200万枚を記録する大ヒットにつながったのです。

(こじへい)
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