先日、高橋由伸の現役引退&監督就任が決定しました。今シーズンも代打で打率.395を残すなど、まだまだ選手としての活躍が期待できたにもかかわらず、原辰徳氏の退任や野球賭博問題が重なってのこの決定。
納得のいっていないファンも多いのではないでしょうか。しかしさかのぼってみると、由伸の巨人入団の経緯も、周りの状況に翻弄された不運なものでした。

【誰もがヤクルト入りすると思っていた】


慶応大学に在学していた由伸は六大学野球のスター選手だったこともあり、どこの球団に行くのかがメディアでかなり注目を集めていました。
そして1997年11月4日、当時慶応大学4年だった由伸は、巨人を逆指名することを会見で発表しました。中々意中の球団を発表しなかったこともあり、この会見の後は当時の総理大臣までもが、この件に関してコメントするほどの注目度でした。

しかし事前の報道では、由伸はヤクルトに行くという声がほとんどでした。あの巨人のお膝元であるスポーツ報知でさえも、会見当日の朝は「高橋由伸、ヤクルト入りが濃厚」と伝えていたほどです。


【あきらめムードだった巨人関係者】


いったい何が起きたのでしょうか? 逆指名翌日のスポーツ報知を見ると、巨人の関係者も相当なあきらめムードだったことが伝わってきます。
末次スカウト部長(当時)は報知の記者に対し、
「逆指名の会見を当日に控えているのに、今まで(4日深夜0時)まで何の連絡もない。どう理解すればいいんだ」、「残念ながら大きな進展は確認できていない。99%(巨人には)いかんな。でも1%も可能性あるならそれに賭ける、もう祈るしかない」
と震え声で話していたといいます。
飛び込んでくる情報すべてがヤクルト有利で、由伸の巨人行きは絶望的に見えました。

【当日未明まで続いた家族会議 覆った決断】


しかし当日未明まで、どこの球団に行くべきか、由伸は両親らと親族会議で話し合っていました。その会議でついにヤクルトを希望する由伸が、巨人行きを勧める両親らに折れる形で巨人逆指名を決めたと同スポーツ報知には書かれています。

実際に、当時のヤクルト監督・野村克也氏は「社長から聞いたが、深夜2時までヤクルトに決めたという確証があったらしいで」というコメントを残していました。

【決断の陰に60億円の借金】


この家族会議でのヤクルトから巨人への心変わり、片岡宏雄氏(元ヤクルトスカウト部長)が自著で事の真相を暴露しています。

逆指名以前、「巨人が嫌だ。堅苦しいチームではなくのびのびやれる環境がいい」とヤクルトに行きたいという胸中を友人に漏らすほどだった由伸。
しかし、由伸は自身の父親の借金という大きな問題を抱えていました。ヤクルトが独自で調べたところ、不動産関係の損失によりなんと約60億円にのぼる借金があることが分かります。

これを知ったヤクルトは、10億円の裏金を用意したり、フジサンケイグループを挙げて由伸取り支援をしたりとあらゆる手を打ったものの、由伸を巨人に取られてしまったのです。

片岡氏は、ヤクルトは慶応監督から「由伸の親の方へは行かないで」という忠告を守っていたが、巨人は父親にかなり攻め込んでいたからだと敗因を振り返っています。

【高橋由伸の胸中はいかに】


由伸自身、元々野球好きでなく、父や兄に殴られて無理やり野球をやらされていたと語っています。そんな経緯がありつつも天性の才能に恵まれ、由伸はドラフト注目選手に。しかし、ドラフトでは父親の借金という外部の都合により、意中の球団入りが叶いませんでした。
そして今回も外部の都合により、引退・監督就任が決まってしまいました。しかし、監督就任会見では、そのような不満を一切見せず、「覚悟を持ってまい進していきたい」と力強いコメントを残していました。

思えば、巨人の逆指名を発表した会見でも「自分の考えに素直に、率直に従おうと決めた」と複雑な胸中をおくびにも出さず、その後も巨人のスター選手へと昇りつめました。監督としても現在、さまざまな問題を抱える巨人軍を立て直してくれることに期待したいです。
(さのゆう90)
オーナーズリーグ17 OL17 ブースト BS高橋由伸 読売ジャイアンツ(巨人)